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審判(カフカ)のあらすじ・登場人物

身に覚えのない逮捕の朝

  • 社会
  • 翻訳

カフカ 訳者 原田義人 1953年(昭和28年)4月 「書き下ろし」

文字数
225,383字
読了目安
約7時間31分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

誰かがヨーゼフ・Kを中傷したにちがいない、何も悪いことをしていないのに、ある朝逮捕されたのだから——という一文で始まる、フランツ・カフカの長編(原題 DER PROZESS)。1914年8月、フェリーツェ・バウアーとの婚約を解消した直後に書き始められ、翌年1月に未完のまま放棄された。題名も章の順序も定まらない原稿を友人マックス・ブロートが十章にまとめ、作者の死後の1925年に刊行した。銀行の業務主任であるKは、逮捕されても拘束はされず、勤めを続けながら、屋根裏の法廷や病床の弁護士、裁判所に出入りする画家のもとを訪ね歩くことになる。訴訟の中身はいっこうに見えず、人々の説明が延々と重なってゆく。作中で語られる寓話は「掟の門前」として生前に単独で発表された。オーソン・ウェルズの映画(1962年)などに翻案されている。ドイツ文学者・原田義人の訳は1953年に新潮社の『カフカ全集』で出たもので、巻末に未完の断章六編を収める。

あらすじ

銀行の業務主任ヨーゼフ・Kは、三十歳の誕生日の朝、下宿の部屋で見知らぬ監視人たちに逮捕を告げられる。罪状は明かされず、身柄も拘束されないまま、銀行勤めは続けてよいと言われる。その夜Kは、隣室のビュルストナー嬢に事の次第を話すうち、思わず彼女に接吻する。日曜日に呼び出された最初の審理は郊外の安アパートの屋根裏で開かれ、Kは傍聴人の前で裁判のやり方を激しく非難するが、聴衆はみな同じ徽章をつけた裁判所の仲間だった。翌週、人けのない法廷で廷丁の妻に言い寄られ、裁判所事務局の重苦しい空気に気分を悪くし、銀行の物置では、自分が訴えたせいで監視人たちが笞刑吏に打たれている場面に出くわす。田舎から訪ねてきた叔父に連れられて病床の弁護士フルトを頼るが、Kはその家の娘レーニに誘惑され、弁護の仕事はいっこうに進まない。訴訟のことで頭がいっぱいになり銀行の仕事が手につかなくなったKは、顧客の工場主の紹介で裁判所の肖像を描く画家ティトレリを訪ね、ほんとうの無罪はまず得られず、外見上の無罪宣告か引延ばししかないと教えられる。弁護士に解約を告げに行った晩、Kは弁護士に卑屈に飼いならされた商人ブロックの姿を目にする。銀行の用でイタリア人の客を案内するはずだった伽藍で、Kは教誨師に名を呼ばれ、掟の門の前で一生待ちつづけた男の寓話を聞かされる。三十一歳の誕生日の前夜、フロックコート姿の二人の男がKを迎えにきて、町はずれの石切場へ連れてゆき、肉切庖丁で心臓を刺す。Kは「まるで犬だ!」と言って死んでゆく。

登場人物

冒頭部(原文より)

 誰かがヨーゼフ・Kを誹謗したにちがいなかった。なぜなら、何もわるいことをしなかったのに、ある朝、逮捕されたからである。彼の部屋主グルゥバッハ夫人の料理女は、毎日、朝の八時ごろに朝食を運んでくるのだったが、この日に限ってやってはこなかった。そういうことはこれまであったためしがなかった。Kはなおしばらく待ち、枕についたまま、向う側の家に住んでいる老婆がいつもとまったくちがった好奇の眼で自分を観察しているのをながめていたが、やがていぶかしくもあれば腹がすいてきもしたので、呼鈴を鳴らした。すぐにノックの音が聞え、この家についぞ見かけたことのない一人の男がはいってきた。すんなりとはしているが、頑丈な身体のつくりで、しっくりした黒服を着ていた。その服は、旅行服に似ていて、たくさんの襞やポケットや留め金やボタンがつき、バンドもついており、そのため、何の用をするのかはっきりはわからぬが、格別実用的に見受けられた。

「審判」カフカ(青空文庫)

末尾部(原文より)

彼の眼差は石切場に接した家のいちばん上の階に注がれた。明りがつくと、ひとつの窓の扉が開き、はるかに高いところにいるので弱々しく、痩せて見える一人の男が、ぐっと前に身体を乗り出し、腕をいっそう広くひろげた。いったい誰だ? 友人か? いい人間か? 関係している人間か? 助けてくれようとする者か? 一人だけなのだろうか? たくさんの人間がいるのだろうか? まだ助かる見込みはあるのか? 忘れられていた異議があるのか? きっとそんな異議があるはずだ。論理は揺るがしがたいが、生きようと欲する人間には、その論理も対抗することはできない。おれが見なかった裁判官はどこにいるんだ? おれがそこまでは行きつけなかった上級裁判所はどこにあるのだ? 彼は両手を上げ、指をことごとくひろげた。  しかし、Kの喉には一人の男の両手が置かれ、もう一方の男のほうは小刀を彼の心臓深く突き刺し、二度そこをえぐった。見えなくなってゆく眼で、Kはなおも、二人の男が頬と頬とを寄せ合って自分の顔の前で決着をながめている有様を見た。 「まるで犬だ!」と、彼は言ったが、恥辱が生き残ってゆくように思われた。

「審判」カフカ(青空文庫)

名文

誰かがヨーゼフ・Kを誹謗したにちがいなかった。なぜなら、何もわるいことをしなかったのに、ある朝、逮捕されたからである。

カフカ『審判』の有名な書き出し。理由の分からない逮捕から始まる不条理な訴訟の物語を、この一文が予告している。

掟の前に一人の門番が立っていた。この門番のところへ一人の田舎の男がやってきて、掟の中へ入れてくれと願った。しかし門番は、今ははいることを許せない、と言った。

大聖堂で僧がKに語るたとえ話「掟の前で」の冒頭。カフカの生前に単独でも発表された寓話で、作品全体の謎を映す鏡とされる。

「憂鬱な意見ですね」と、Kは言った。「虚偽が世界秩序にされているわけだ」

たとえ話の解釈をめぐる僧との問答で、Kが返す言葉。真実よりも「必然」が求められる世界への違和感が、鋭く言い表されている。

「まるで犬だ!」と、彼は言ったが、恥辱が生き残ってゆくように思われた。

石切場で二人の男に処刑されるKの最期の言葉で、『審判』の結びの一文。理由も知らされぬまま裁かれた男の屈辱が残る。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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