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流刑地で(カフカ)のあらすじ・登場人物

判決を体に刻む処刑機械

  • 社会
  • 翻訳

カフカ 訳者 原田義人 1960年(昭和35年)4月 「書き下ろし」

文字数
31,755字
読了目安
約1時間4分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

熱帯の流刑地を訪れた調査旅行者が、新しい司令官のすすめで、上官を侮辱したとして判決を受けた兵士の処刑に立ち会う。執行役の将校は、前の司令官が考案したという装置の仕組みを、誇らしげに一つずつ説明しはじめる——。フランツ・カフカが1914年10月、長編『審判』の執筆に行き詰まったさなかに書き上げた短編(原題 IN DER STRAFKOLONIE)で、1919年にクルト・ヴォルフ社から小さな本として刊行された。装置に心酔する将校の熱弁と、礼儀を保ちながら距離を置く旅行者とのやりとりで、ほぼ全編が組み立てられている。ドイツ文学者・原田義人の訳。

あらすじ

熱帯の流刑地を訪れた調査旅行者は、司令官のすすめで、ある兵士の刑の執行に立ち会うことになる。兵士は、当番として上官の戸口の前で夜通し起きているべきところを寝過ごし、とがめられて上官に食ってかかったために、弁明の機会もなく判決を下された。執行役の将校は、前の司令官が考案した装置を誇らしげに説明する。受刑者をベッドに寝かせると、エッゲ(馬鍬)の針が、犯した掟――この男なら「汝の上官をうやまえ」――を十二時間かけて体に刻みこみ、六時間目には受刑者の顔に悟りの表情が浮かぶのだという。だが新しい司令官はこの裁きを快く思わず、装置の予算も削られ、将校の支持者は姿を消していた。将校は、外国人である旅行者が司令部の会議でこの裁きを支持してくれるよう懇願するが、旅行者はきっぱりと断る。すると将校は受刑者を放免し、図引きに「正しくあれ」という図面をはめこむと、自ら服を脱いでベッドに横たわる。装置はひとりでに動きだすが、やがて歯車を吐き出して壊れ、文字を書くかわりに将校の体をただ突き刺す。死んだ将校の顔には約束の悟りの表情はなく、額には鉄のみの尖端が突き刺さっていた。旅行者は茶店のテーブルの下に隠された旧司令官の墓を見たあと港へ向かい、追いすがってきた兵士と受刑者がボートへ跳び移るのを、重いロープで振り払う。

登場人物

冒頭部(原文より)

「奇妙な装置なのです」と、将校は調査旅行者に向っていって、いくらか驚嘆しているようなまなざしで、自分ではよく知っているはずの装置をながめた。旅行者はただ儀礼から司令官のすすめに従ったらしかった。司令官は、命令不服従と上官侮辱とのために宣告を下された一人の兵士の刑の執行に立ち会うようにとすすめたのだった。この刑執行に対する関心は、流刑地でもたいして大きくはないらしかった。少なくとも木のない山腹に取り囲まれた深くて小さい砂地のこの谷間には、将校と旅行者とのほかには、頭髪も顔の髯ものび放題の、頭の鈍い大口の受刑者と、兵士が一人いるだけだった。その兵士は重い鎖をもっており、それから小さないくつかの鎖が出ていて、それで受刑者の足首や手首や首もしばられていた。またそれらの小さな鎖はつなぎの鎖でつなぎ合わされている。ところで、受刑者は犬のように従順に見えるので、まるで自由に四方の山腹をかけ廻らせておくことができ、執行の直前にただ笛を鳴らしさえすればもどってくるような様子に見受けられた。

「流刑地で」カフカ(青空文庫)

末尾部(原文より)

 旅行者がそれを読み終わり、立ち上がったとき、自分のまわりに男たちが立ち、ほほえんでいるのを見た。自分たちもお前といっしょに墓銘を読んだが、滑稽なものだと思ったし、お前も自分たちの意見に賛成するようにすすめる、といわんばかりだ。旅行者はそれに気づかぬようによそおって、何枚かの貨幣を男たちにわけ与え、さらにテーブルが墓の上に押しもどされるまで待ったあとで、茶店を出て、港へいった。  兵士と受刑者とは茶店で知合いの者たちを見つけ、彼らに引きとめられた。だが、すぐ彼らから別れてきたにちがいない。というのは、旅行者がボートに通じる長い階段のなかほどまで下りていったときには、二人は彼のあとを追って走ってきたのだった。二人は最後の瞬間に旅行者に頼みこんで、無理にも自分たちをつれていかせるつもりらしい。旅行者が階段の下で一人の船頭と汽船への渡し舟の交渉をしているあいだに、二人はすごい勢いで階段をかけ下りてきた。無言のままだった。彼らはあえて叫ぼうとはしなかった。ところが、二人が階段の下に着いたときには、旅行者はもうボートに乗り、船頭がちょうど岸からボートを離したところだった。二人はまだボートへ跳び移ることができたかもしれない。ところが、旅行者は結び目のある重い一本のロープを舟底から取り上げ、それで追ってくる二人をおどかし、それによって二人が跳び移るのをはばんだのだった。

「流刑地で」カフカ(青空文庫)

名文

「奇妙な装置なのです」と、将校は調査旅行者に向っていって、いくらか驚嘆しているようなまなざしで、自分ではよく知っているはずの装置をながめた。

カフカ『流刑地で』の書き出し。処刑装置を誇らしげに見る将校のまなざしから、旅行者の目を通した異様な一日が始まる。

教えてやっても意味はないでしょう。なにしろ自分の身体で思い知るわけですから

受刑者は自分の判決を知っているのかと問われた将校の答え。判決が身体に刻まれるという装置の仕組みを、事もなげに語る冷たさが際立つ。

私が裁決するときの原則は、罪はいつでも疑いの余地がない、ということです。

弁明の機会も与えずに判決を下すことを、裁判官を兼ねる将校が平然と説明する言葉。カフカの描く不条理な裁きの論理が端的に表れている。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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