判決(カフカ)のあらすじ・登場人物
婚約を告げる手紙と父
- 家族
- 翻訳
- 文字数
- 12,217字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
フランツ・カフカが1912年9月22日の夜から翌朝にかけて、一気に書き上げた短編(原題 DAS URTEIL)。恋人フェリーツェ・バウアーに献げられ、翌1913年に年鑑『アルカディア』に発表された。春の日曜日の朝、若い商人ゲオルク・ベンデマンは、ロシアへ渡って商売に行き詰まっている幼なじみに、自分の婚約を知らせる手紙を書き終え、それを持って年老いた父の部屋を訪ねる。この作品を書いた夜がカフカにとって作家としての転機になったとされる。ドイツ文学者・原田義人の訳。
あらすじ
春の日曜日の朝、若い商人ゲオルク・ベンデマンは、ペテルスブルクで商売に行き詰まっている幼なじみに宛てて、裕福な家の娘フリーダ・ブランデンフェルトとの婚約を知らせる手紙を書き終える。母の死後、父と二人で暮らし、店を大きくしてきたゲオルクは、手紙を見せに父の暗い部屋へ行く。父はペテルスブルクに友だちなどいるのかと言い出し、ゲオルクは衰えた父をいたわってベッドへ運び、ふとんをかける。ところが父はふとんをはねのけてベッドの上に立ち上がり、お前は婚約者のために母の思い出も友人も父も裏切ったと罵る。そして、自分こそずっと友人と手紙をやりとりし、すべてを知らせてきたのだと言い放ち、息子に溺死の刑を宣告する。ゲオルクは部屋を飛び出して川へ走り、橋の欄干にぶら下がって、「お父さん、お母さん、ぼくはあなたがたを愛していたんですよ」とつぶやいて手を離す。その瞬間、橋の上を限りない車の列が通り過ぎていった。
登場人物
- ゲオルク・ベンデマン 若い商人。母の死後、父と暮らしながら店を切り盛りしている
- 父 ゲオルクの年老いた父
- 友人 ゲオルクの幼なじみ。ペテルスブルクで商売に行き詰まっている
- フリーダ・ブランデンフェルト ゲオルクの婚約者。裕福な家の娘
冒頭部(原文より)
すばらしく美しい春の、ある日曜日の午前のことだった。若い商人のゲオルク・ベンデマンは二階にある彼の私室に坐っていた。その家は、ほとんど高さと壁の色とだけしかちがわず、川に沿って長い列をつくって立ち並んでいる、屋根の低い、簡単なつくりの家々のうちの一軒である。彼はちょうど、外国にいる幼な友達に宛てた手紙を書き終えたばかりで、遊び半分のようにゆっくりと封筒の封をし、それから机に肘をついたまま、窓越しに川をながめ、橋と、浅緑に色づいている対岸の小高い丘とをながめた。 この友達というのが、故郷での暮しに満足できず、すでに何年か前にロシアへ本格的に逃げ去っていったことを、彼は考えていた。今、その友人はペテルスブルクで商売をやっているが、最初はとても有望のようであったその商売も、ずっと前からすでにゆきづまっている様子で、こちらへ帰ってくることもだんだんとまれになってきているが、いつでもそれをこぼしていた。異国の空の下でむだにあくせく働いたわけで、顎や頬いちめんの異様な髯が、子供のころから見慣れた顔をなんともぶざまにおおっていた。黄色な顔の皮膚の色は進行しつつある病気を暗示しているようであった。彼の語るところによれば、かの地における同郷仲間ともしっくりいかないで、かといってロシア人の家庭ともほとんどつき合いをしているわけでもなく、覚悟をきめた独身生活を固めているということだった。
「判決」カフカ(青空文庫)
末尾部(原文より)
ゲオルクは部屋から追い出されるように感じた。彼の背後で父がベッドの上にばたりと倒れる音が、走り去る彼の耳に聞こえつづけていた。階段をまるで斜面をすべるようにかけ下りていったが、部屋を夜の支度のために片づけようとして階段を上がってくる女中にぶつかった。 「まあ、なんていうことを!」と、女中は叫び、エプロンで顔を隠した。しかし、彼はもう走り去っていた。門から飛び出し、線路を越えて河のほうへひきよせられていった。まるで飢えた人間が食物をしっかとつかむように、彼は橋の欄干をしっかとにぎっていた。彼はひらりと身をひるがえした。彼はすぐれた体操選手で、少年時代には両親の自慢の種になっていた。だんだん力が抜けていく手でまだ欄干をしっかりにぎって、欄干の鉄棒のあいだからバスをうかがっていた。バスは彼が落ちる物音を容易に消してくれるだろう。それから低い声でいった。 「お父さん、お母さん、ぼくはあなたがたを愛していたんですよ」そして、手を離して落ちていった。 その瞬間に、橋の上をほんとうに限りない車の列が通り過ぎていった。
「判決」カフカ(青空文庫)
名文
すばらしく美しい春の、ある日曜日の午前のことだった。若い商人のゲオルク・ベンデマンは二階にある彼の私室に坐っていた。
カフカ『判決』の書き出し。穏やかな春の日曜日、友への手紙を書き終えた青年の平穏な描写から、思いがけない父子の対決へと進んでいく。
その瞬間に、橋の上をほんとうに限りない車の列が通り過ぎていった。
父の「判決」に従って河へ身を投げた直後の、物語の最後の一文。一人の死と無関心に流れる街の往来が並べて置かれる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。