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鵞鳥(幸田露伴)のあらすじ・登場人物

御前で鋳る二羽の鵞鳥

  • 心理

幸田露伴 1939年(昭和14年)12月 「日本評論」

文字数
11,234字
読了目安
約22分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1939年(昭和14年)12月、『日本評論』に発表された幸田露伴の短編小説。初夏の谷中、職人から身を起こして美術学校の教官となった鋳金家の若崎が、いつになく沈んだ顔で帰宅し、苦労をともにしてきた妻をうろたえさせる。夫思いの妻は、同じく職人の出で木彫を手がける近所の同僚中村に来てもらう。中村の来訪で、若崎の屈託の原因が、天皇の学校への行幸の際に御前で鋳物を製作してご覧に入れるという大役にあったことがわかる。題材を「二羽の鵞鳥」と決めた若崎と、兄貴分の中村とのあいだで、火を通して成る鋳金の難しさ、腕と誠、そして「準備」の意味をめぐる問答が交わされる。晩年の露伴が工芸家の世界と芸の覚悟を描いた作品。

あらすじ

初夏の谷中。鋳金家の若崎が浮かぬ顔で帰り、妻に何を問われても答えない。心配した妻は、近所に住む同僚で木彫家の中村を呼びに行く。中村の話で、若崎が校長から、一週間後の天皇の学校行幸の際に御前で製作して献納するよう命じられたとわかり、妻は安心して下がる。若崎は最初辞退したことを明かし、火を通る鋳金は熔金を入れて型を割るまで成否がわからない、御前で失敗する予感がすると苦しむ。題は帰り道に浮かんだ二羽の鵞鳥で、首を高く細く伸ばした雄と、その雄に寄っていく雌。中村は、熔金の切れるおそれのない蟾蜍に改題してはと勧めるが、若崎は退ける。中村は木彫にも木理という難所があると説き、若崎はどの道にも苦しい瀬戸があると悟って礼を言う。さらに中村は、徳川時代の御前細工に失敗談がないのは、殿の休息の間にあらかじめ作っておいた品とすり替える「準備」があったからだと声をひそめて教える。若崎は驚き、その夜、自分は明治の人間だ、たとえ失敗しても天子様は認めてくださると心に叫ぶ。行幸の日、桶の水の中から現れた鵞鳥は、雄の首が熔金のまわりが悪くて断れていた。若崎は拝伏して泣いたが、芸術の奥には測りがたいものがあることを諒とされ、その後たびたび大きな御用命を受けて、その道で名を馳せた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ガラーリ  格子の開く音がした。茶の間に居た細君は、誰かしらんと思ったらしく、つと立上って物の隙からちょっと窺ったが、それがいつも今頃帰るはずの夫だったと解ると、すぐとそのままに出て、 「お帰りなさいまし。」 と、ぞんざいに挨拶して迎えた。

「鵞鳥」幸田露伴(青空文庫)

末尾部(原文より)

 天皇は学校に臨幸あらせられた。予定のごとく若崎の芸術をご覧あった。最後に至って若崎の鵞鳥は桶の水の中から現われた。残念にも雄の鵞鳥の頸は熔金のまわりが悪くて断れていた。若崎は拝伏して泣いた。供奉諸官、及び学校諸員はもとより若崎のあの夜の心の叫びを知ろうようは無かった。  しかし、天恩洪大で、かえって芸術の奥には幽眇不測なものがあることをご諒知下された。正直な若崎はその後しばしば大なるご用命を蒙り、その道における名誉を馳するを得た。

「鵞鳥」幸田露伴(青空文庫)

原文を読む

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