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我鬼(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

老いた秀吉と秀次の疑心

  • 歴史

坂口安吾 1946年(昭和21年)9月 「社会」

文字数
8,654字
読了目安
約17分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

1946年、雑誌『社会』の創刊号に載った歴史小説。晩年の太閤秀吉と、その甥の関白・秀次を主人公に、朝鮮出兵、鶴松の死、秀頼の誕生という流れのなかで、嫉妬と疑念が二人を追いつめてゆくさまを描く。英雄を人間の弱さの側から見る、安吾の秀吉像。

あらすじ

盛運の秀吉は意志で弱点を抑えていたが、実は狭量で嫉妬深く、小さなことを根に持つ男だった。朝鮮遠征は信長晩年の妄想の模倣にすぎず、計画も方針もないまま失敗する。愛児鶴松の死に狂った秀吉は有馬へ湯治に出て、帰ると朝鮮出兵の触れを出す。やがて秀頼が生まれると、秀吉は関白を秀頼に譲らせたいと願う。関白秀次は秀吉に愛されず、荒淫と残虐に沈みながらも、「殺さなければ殺されない」と必死に祈る。饗宴は延期を重ね、能の興行では秀次の仕舞が喝采を浴びて秀吉の嫉妬をかきたてる。秀吉は突然、謀叛の疑いで秀次を詰問し、秀次は誓紙を書くが、秀吉は一度は涙を流しても、一週間後に高野山へ追って切腹の使者を出す。妻妾子供三十余名は三条河原で斬られ、悪逆塚に葬られた。しかし秀次を殺しても、行く手には家康の影が立ちこめていた。病床の秀吉は五大老五奉行に誓紙を書かせ、前田利家に秀頼を頼み、朝鮮の兵隊たちのことを呟きつつ息絶える。

登場人物

冒頭部(原文より)

 秀吉は意志で弱点を抑へてゐた、その自制は上り目の時には楽しい遊戯である。盛運の秀吉は金持喧嘩せず、心気悠揚として作意すらも意識せられず、長所だけで出来あがつた自分自身のやうであつた。彼は短気であつたが、あべこべに腹が立たなくなり、馬鹿にされ、踏みつけられ、裏切られ、それでも平気で、つまり実質的な自信があつた。家康に卑屈なほどのお世辞を使ひ、北条の悪意のこもつた背信に平然三年間も人事のやうに柳に風、すべては昇運の勢である。けれども、実際は狭量で、変質的に嫉妬深く、小さなことを根にもつて執拗に又逆上的に復讐する男であつた。その気質を家康は知つてゐた。

「我鬼」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 秀吉は病床の枯木の骨を抱き起させ、前田利家の手をとり、おしいたゞいて、大納言、頼みまするぞ、頼みまするぞ。利家はたつた一人の親友だつた。枯木のうちに、不思議に涙はあるものだつた。  秀吉はふと目をひらいた。もつと大きな目をひらくために努力してゐるやうだつた。そして突然顔が目だけであるやうに大きくうつろな穴をあけた。古いすゝけた紙のやうに濁つて鈍く光つてゐた。朝鮮の兵隊たちを、あとはよく聞きとることが出来なかつた。殺すな、と言つたやうだつた。そして眼がだんだん閉ぢた。秀吉は死んでゐた。

「我鬼」坂口安吾(青空文庫)

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