野分(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
秋風のようにはかない恋
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 21,411字
- 読了目安
- 約43分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎が1946年(昭和21年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。料理屋の娘・お紋の、屈託のない笑い声に心を惹かれた武士・又三郎の、淡い思いを描く。秋の野を吹き渡る野分のように、もの哀しい余韻を残す、はかない恋の物語である。
あらすじ
料理屋で、板前が「鯊のあらい」と注文されたのに黒鯛をさばこうとしている——そのとりちがえを、娘のお紋が顔を赤くして、堪らないというように笑いこける。武士の又三郎は「ばかだな」と受け流すが、その夜、屋敷へ帰って寝所に入ってから、ふとそのことを思いだし、ひとりでくすくす笑いだす。つまらないことをあんなに笑うお紋が可笑しくなったのだ。片頬にえくぼを寄せて笑いこける娘の姿が、ありありと眼に浮かぶ——後から考えれば、それがお紋に心を惹かれる最初のきっかけだった。だが、この淡い思いは、思いがけぬかたちで断ち切られる。ある日、又三郎がお紋の家をたずねると、一家はすでに目黒か荏原のほうへ、とつぜん引き移ったあとだった。落ち着いたら知らせるというばかりで、行き先もはっきりしない。力のない足どりで馬に乗り、刈田の広がる野を北へ駆けた又三郎は、人影もないうらさびれた眺めのなか、ひょうひょうと吹きわたる野分の音を聞きながら、口のなかでそっと呟く。「お紋……逢わなければよかった」。秋風のようにもの哀しい、はかない恋を描いた、山本の一編である。
登場人物
- 又三郎 お紋に心を惹かれる武士
- お紋 料理屋の娘
冒頭部(原文より)
「なにがそんなに可笑しいんだ」 「だってあんまりですもの」運んで来た燗徳利を手に持ったまま、お紋は顔を赤くして笑い続けた、「……板前さんがあんまりなんですもの」
「野分」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
葉の黄ばんだ雑木林と、枯れた草原のあいだを、道は北へと迂曲しながら消えてゆく、人の影もないうらさびれた眺望を、さらにもの哀しくするように、林をそよがせ枯草をゆすって、ひょうひょうと野分が吹きわたっていた。 「お紋……」口のなかでそっと囁くように、その武士はこう呟いた、「……逢わなければよかった」
「野分」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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