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野分(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

秋風のようにはかない恋

  • 歴史
  • 心理

山本周五郎 1946年(昭和21年)12月 「講談雑誌」

文字数
21,411字
読了目安
約43分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

山本周五郎が1946年(昭和21年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。料理屋の娘・お紋の、屈託のない笑い声に心を惹かれた武士・又三郎の、淡い思いを描く。秋の野を吹き渡る野分のように、もの哀しい余韻を残す、はかない恋の物語である。

あらすじ

料理屋で、板前が「鯊のあらい」と注文されたのに黒鯛をさばこうとしている——そのとりちがえを、娘のお紋が顔を赤くして、堪らないというように笑いこける。武士の又三郎は「ばかだな」と受け流すが、その夜、屋敷へ帰って寝所に入ってから、ふとそのことを思いだし、ひとりでくすくす笑いだす。つまらないことをあんなに笑うお紋が可笑しくなったのだ。片頬にえくぼを寄せて笑いこける娘の姿が、ありありと眼に浮かぶ——後から考えれば、それがお紋に心を惹かれる最初のきっかけだった。だが、この淡い思いは、思いがけぬかたちで断ち切られる。ある日、又三郎がお紋の家をたずねると、一家はすでに目黒か荏原のほうへ、とつぜん引き移ったあとだった。落ち着いたら知らせるというばかりで、行き先もはっきりしない。力のない足どりで馬に乗り、刈田の広がる野を北へ駆けた又三郎は、人影もないうらさびれた眺めのなか、ひょうひょうと吹きわたる野分の音を聞きながら、口のなかでそっと呟く。「お紋……逢わなければよかった」。秋風のようにもの哀しい、はかない恋を描いた、山本の一編である。

登場人物

冒頭部(原文より)

「なにがそんなに可笑しいんだ」 「だってあんまりですもの」運んで来た燗徳利を手に持ったまま、お紋は顔を赤くして笑い続けた、「……板前さんがあんまりなんですもの」

「野分」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 葉の黄ばんだ雑木林と、枯れた草原のあいだを、道は北へと迂曲しながら消えてゆく、人の影もないうらさびれた眺望を、さらにもの哀しくするように、林をそよがせ枯草をゆすって、ひょうひょうと野分が吹きわたっていた。 「お紋……」口のなかでそっと囁くように、その武士はこう呟いた、「……逢わなければよかった」

「野分」山本周五郎(青空文庫)

原文を読む

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