備前名弓伝(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
無口な弓の達人の底知れぬ技
- 歴史
- 文字数
- 24,659字
- 読了目安
- 約49分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 岡山県
この作品について
山本周五郎が1946年(昭和21年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。備前岡山藩の弓の名手・青地三之丞は、おっとりして口数がすくなく、何を言っても「されば」で済ませてしまう男。そんな彼が、その静かな人柄の底に秘めた、弓にかける凄まじい技と覚悟を見せる。真の達人の姿を、藩主・池田光政の眼を通して描いた一編である。
あらすじ
備前・岡山藩の藩士に、弓の達人・青地三之丞がいた。幼い頃からおっとりした性質で、怒った顔を見せたことも、人と喧嘩口論をしたこともない。おまけにひどく口数がすくなく、大事でない話は「されば」の一言で片付けてしまう。くどく話しかけられると、しまいには「されば」も言わずに黙りこむ——そんな三之丞の落ち着きぶりは、「雷三左どの」とあだ名される性急な伯父・三左衛門を、いつも苛立たせていた。伯父の娘・なつは、四つ違いの三之丞をよく味方する、思いやり深い利発な娘である。この静かでとらえどころのない男が、じつはその内に、弓にかける凄まじい技と覚悟を秘めていた。物語の山場、三之丞は、迫りくる大剣の遣い手・幸之進を、一矢のもとに、左胸から矢羽根の際まで見事に射通してしまう。そのあまりのみごとさ、すさまじさに、検分の者たちも賞讃の言葉を忘れて茫然とする。復命に帰った三之丞に、藩主・池田光政は「大儀であった」とだけ告げた——口に出して褒めるにはもったいないほど奥ゆかしい、と思ったのである。以来、三之丞は光政の「御秘蔵人」と呼ばれ、伯父の娘なつを妻に迎えて、長く岡山藩にその家を伝えた。無口な達人の底知れぬ力を描いた、山本の一編である。
登場人物
- 青地三之丞 無口な弓の達人
- 青地三左衛門 性急な伯父。「雷三左」
- なつ 三左衛門の娘。のち三之丞の妻
- 池田光政 岡山藩主
冒頭部(原文より)
備前の国岡山の藩士に、青地三之丞という弓の達人がいた。食禄は三百石あまり、早く父母に死別したので、伯父にあたる青地三左衛門の後見で成長した。十九歳の時家督を相続、少年の頃から弓の巧者だったので、お弓組にあがって勤めていた。三之丞は幼少の頃からおっとりした性質で、怒ったという顔を見せたことがないし、かつて人と喧嘩口論をした例がない。
「備前名弓伝」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
三之丞が復命に帰城したとき、光政はなつから聞いたことはなにも云わず、 「大儀であった」 と一言賜わっただけであった。口に出して褒めるにはもったいないほど奥ゆかしいと思ったのである。三之丞が光政の「御秘蔵人」と云われるようになったのはそれからのことで、間もなく伯父の娘なつを妻に迎え、ながく岡山藩にその家を伝えた。
「備前名弓伝」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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