家康(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
狸ではない家康
- 歴史
- 文字数
- 12,002字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
1947年(昭和22年)1月、雑誌「新世代」に載った安吾の歴史人物論。民衆が「狸オヤジ」と呼ぶ徳川家康を、生まれつきの古狸ではなく、時代の風潮に押し出された律義で小心な平凡な偉人として描き直す。頼朝や信長、秀吉との比較、芸術家の自由と時代思潮の話など、安吾らしい脱線をまじえて展開する。
あらすじ
家康は狸オヤジと相場が決まっているが、関ヶ原から大坂の陣までのやり口は不手際で、生まれつきの犯罪者の手口ではなく初犯の手口だと安吾は言う。信長以後の戦国の世は、権謀術数に疲れた諸侯が平和や秩序を求めはじめた時代で、同盟を守る律義さを持つ家康が副将軍に祭り上げられた。幼いころ人質に出され、父が自分を見捨ててでも同盟を守ったことが、家康の信仰のような原理になったと安吾は解釈する。家康は小心で、驚くとすぐ顔色が変わり、爪を噛む癖があり、関ヶ原でも勝つまでは見通しなどなかった。勝って初めて天下への欲が出て、あくどい手口を使い、古狸のようになった。家康は力ずくで天下を取る人ではなく、よい番頭、よい公僕の性質で、議会政治なら保守党の領袖が似合う人物であった、と安吾は結論する。
冒頭部(原文より)
徳川家康は狸オヤジと相場がきまっている。関ヶ原から大坂の陣まで豊臣家を亡すための小細工、嫁をいじめる姑婆アもよくよく不埓な大狸でないとかほど見えすいた無理難題の言いがかりはつけないもので、神君だの権現様だの東照公だのと言いはやす裏側で民衆の口は狸オヤジという。
「家康」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
幸い彼は桶屋の伜や百姓の二男坊や足軽の家などに生れずに、大将の家に生れて、始めからそういう教育を受け、戦争を自主的に行う立場であったから、兵卒なら発狂する線を踏み越えて意慾的な行動をすることができたのかも知れない。彼の足跡をつぶさにふりかえると、この想像も必ずしも奇矯ではないようである。古狸よりは、むしろお人好しの然し図太いところもある平凡な偉人であったようだ。
「家康」坂口安吾(青空文庫)
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