二流の人(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
天下人になれなかった軍師
- 歴史
- 文字数
- 55,924字
- 読了目安
- 約1時間52分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
坂口安吾が「黒田如水」の題で1944年(昭和19年)1月、雑誌「現代文學」に発表し、のち書き下ろしを加えて1947年(昭和22年)に単行本化した歴史小説。豊臣秀吉、徳川家康という時代の巨星のかたわらにいた稀代の軍略家・黒田如水(官兵衛)の生涯を、小田原征伐から朝鮮の陣、関ヶ原の戦いへと追う。講談調のくだけた語り口とユーモアを交えて、天下を狙う野心と冷静な分別のあいだに立つ人物を描いた、安吾の歴史小説を代表する一編である。
あらすじ
天正十八年、小田原征伐の陣中で、徳川家康と黒田如水が初めて相まみえる。稀代の軍略家として秀吉の天下取りを支えながら、如水はつねに「二流の人」であった。抜きん出た知略と野心を抱きながらも、秀吉には警戒され、要所で一流の座を他に譲らされ、天下人には成りきれない。秀吉の朝鮮出兵に翻弄され、老いてなお九州に一国を切り取ろうとする夢を捨てきれぬ如水。関ヶ原の戦いに乗じ、隠居の身でありながら独力で九州の石田方を切り従える意外な大活躍を見せるが、その働きに対し、家康は息子の長政には厚く恩賞を与えながら、如水にはただの一文の沙汰もしない。家康は「あの策師の九州の働きが、いったい誰のためのものか」と冷ややかに笑うのみ。のちに家康は如水を大坂に招き、耳に快いお世辞を並べて位や領地を与えようと持ちかけるが、実の伴わぬそれを如水は淡々と辞退する。応仁以来のどさくさは終わり、自分の出る幕もすんだ――そう胸のうちで淡々とつぶやく如水は、その一生もまた茶番のように空しく終わったことには、ついに思い至らないのだった。時代の巨人たちのはざまで、一流たりえなかった英雄の悲喜劇を、安吾が独特のユーモアと文明批評的な史眼で描き出す。
登場人物
- 黒田如水(官兵衛) 稀代の軍略家。天下を望む野心と分別を併せ持ちながら、ついに一流の座に届かぬ「二流の人」
- 徳川家康 如水の器量を見抜き、その働きを冷ややかにあしらう天下人
- 豊臣秀吉 如水を警戒しつつ用いる天下人。朝鮮出兵で如水を翻弄する
- 黒田長政 如水の子。関ヶ原の功で家康から厚い恩賞を受ける
冒頭部(原文より)
第一話 小田原にて 一 天正十八年、真夏のひざかりであつた。小田原は北条征伐の最中で、秀吉二十六万の大軍が箱根足柄の山、相模の平野、海上一面に包囲陣をしいてゐる。その徳川陣屋で、家康と黒田如水が会談した。この二人が顔を合せたのはこの日が始まり。いはゞ豊臣家滅亡の楔が一本打たれたのだが、石垣山で淀君と遊んでゐた秀吉はそんなことゝは知らなかつた。
「二流の人」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
応仁以降うちつゞいた天下のどさくさは終つた、俺のでる幕はすんだといふ如水の胸は淡泊にはれてゐた。どさくさはすんだ。どさくさと共にその一生もすんだといふ茶番のやうな儚さを彼は考へてゐなかつた。
「二流の人」坂口安吾(青空文庫)
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