右大臣実朝(太宰治)のあらすじ・登場人物
近習が語る若き将軍実朝
- 歴史
- 文字数
- 115,159字
- 読了目安
- 約3時間50分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
太宰治が1943年(昭和18年)、書き下ろしの長編小説として刊行した歴史もの。鎌倉幕府三代将軍にして歌人でもあった源実朝の生涯を、その側近くに仕えた一人の老いた元近習の回想として語らせる。歴史書「吾妻鏡」の記述を各章の冒頭に掲げ、その簡潔な記録の背後に、聡明で優雅、どこか超然とした「アカルサ」をたたえた実朝像を浮かび上がらせる。政争の渦中にありながら澄んだ心を失わなかった若き将軍への深い敬愛が全篇を貫き、戦時下に書かれた太宰の理想主義的な人間観がにじむ。太宰の歴史小説の代表作とされる一編である。
あらすじ
「おたづねの鎌倉右大臣さまに就いて、それでは私の見たところ聞いたところ……」——語り手は、かつて将軍・源実朝の身近に仕え、実朝の横死ののち出家して山中に隠棲する老人である。問われるままに、彼は敬愛してやまぬ亡き主君の思い出を語りはじめる。十二歳で御所に上がった彼が初めて見た実朝は、火事で貴重な文書を焼かれて泣き崩れる老臣を、屈託なくにこやかに眺めているような、この世の利害を超えた不思議な明るさをたたえた少年だった。物語は「吾妻鏡」の年代記の記述を各章の冒頭に置きながら、和田合戦をはじめとする鎌倉の血なまぐさい権力抗争を背景に、和歌に心を遊ばせ、宋への渡航を夢み、周囲の思惑をよそに超然と生きる実朝の姿を、近習のまなざしから静かに描き出していく。聡明で優雅、しかし政治の非情からは遠く隔たったその貴公子は、やがて右大臣拝賀の日、鶴岡八幡宮の石段で甥の公暁に討たれ、二十八歳の生涯を閉じる。「世のなか、ふつと火を消ちたるさまなり」——将軍を失った都の空虚を告げる一文で、物語は結ばれる。政争のただ中にありながら澄んだ心を保った若き将軍への敬愛を、格調高い擬古文で綴った、太宰治の歴史小説の白眉である。
登場人物
- 源実朝 鎌倉幕府三代将軍。歌人
- 語り手 実朝に仕えた老いた元近習
- 公暁 実朝を討つ甥
冒頭部(原文より)
おたづねの鎌倉右大臣さまに就いて、それでは私の見たところ聞いたところ、つとめて虚飾を避けてありのまま、あなたにお知らせ申し上げます。間違ひのないやう、出来るだけ気をつけてお話申し上げるつもりではございますが、それでも万一、年代の記憶ちがひ或いはお人のお名前など失念いたして居るやうな事があるかも知れませぬが、それは私の人並はづれて頭の悪いところと軽くお笑ひになつて、どうか、お見のがし下さいまし。
「右大臣実朝」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
きさらぎ二日、加藤判官六波羅に馳せつき、右府将軍御他界のよし申しければ、京中の貴賤男女聞き伝へ、東西を失ひて歎き悲しみける。 ただ、あきれたるよりほかの事なし、京にもきこしめしおどろく、世のなか、ふつと火を消ちたるさまなり。(増鏡)
「右大臣実朝」太宰治(青空文庫)
名文
アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ。
平家琵琶を聞いた将軍実朝がひとりごとのように漏らしたと、近侍していた語り手が伝える言葉。作中で実朝の言葉は片仮名で書き分けられ、滅びを予感しつつ明るさを失わない実朝像を印象づける。
原文を読む
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