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薯粥(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

真の武士道を説く謎の剣客

  • 歴史

山本周五郎 1943年(昭和18年)12月 「講談雑誌」

文字数
12,024字
読了目安
約24分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 愛知県

この作品について

山本周五郎が1943年(昭和18年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。三河・岡崎の城下に現れた、素性の知れぬ剣客・十時隼人。彼は、扶持も名誉も求めず、ただ足軽たちに剣を教え、薯粥をふるまう。「まことに武士として生きる心」を説く謎の剣客の姿を通して、真の生き方を問う、山本の名短編である。

あらすじ

承応二年、三河のくに岡崎藩の老職・鈴木惣兵衛のもとへ、十時隼人と名のる浪人者が訪ねてくる。町道場をひらきたいというのだが、その願いは変わっていた——「足軽衆のうち、その志のある人々にかぎって稽古をつけたい」というのだ。侍には教えず、扶持も名誉も一切求めず、ただ城下に住まわせてもらう恩に報いたいだけだ、と隼人は言う。逞しい骨組みと精悍な気質、そしてどこかゆたかでおおらかな人柄——惣兵衛は、この男に言いようのない好感をいだく。隼人は足軽たちに剣を教え、みなに薯粥(芋がゆ)をふるまいながら、日常の生き方の大切さを説いた。藩主・水野忠善が召し抱えようとしても、隼人は辞退する。「わたくしは兵法で一国一藩のお抱えとなるのが目的ではございません、日本国いずれの地もわが道場、いずれの人もわがゆく道の同志門人と心得ます」。矢作橋が完成すると、隼人は飄然と岡崎を去る。「百石の侍に出世することよりも、足軽として誰にも劣らぬすぐれた人間になれ」——それが彼の兵法の根本だった。去ったあと、隼人は柳生十兵衛か宗冬だったのではという噂が広まるが、真偽は分からずじまい。心のこもった温かい薯粥の伝説だけが、岡崎人の心に長く残ったのだった。真の武士の生き方を問う、山本の名短編である。

登場人物

冒頭部(原文より)

 承応二年五月はじめの或る日、三河のくに岡崎藩の老職をつとめる鈴木惣兵衛の屋敷へ、ひとりの浪人者が訪れて来て面会を求めた。用件を訊かせると、町道場をひらきたいに就いて願いの筋があるということだった。

「薯粥」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「もうみんなに、薯粥のふるまいができなくなったからな」袂別の朝、さいごの粥を啜りあいながら、隼人は笑ってそういった、「また何処か人足の稼ぎのあるところへゆくよ、そして青草原のあるところへ、……この二つさえあるところなら、どこでもおれの道場だ」  さもあらばあれ、心のこもった温かい薯粥の伝説は、岡崎人の心にながく忘れがたい印象となって残ったのである。

「薯粥」山本周五郎(青空文庫)

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