黒田如水(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
歯のない番犬の野望
- 歴史
- 文字数
- 13,517字
- 読了目安
- 約27分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
この作品について
1943年(昭和18年)、雑誌「現代文学」に発表された坂口安吾の歴史小説。小田原攻めの陣中、豊臣秀吉の軍師・黒田如水(官兵衛)が初めて徳川家康と会談する場面から、如水という人物を描きだす。秀吉に怖れられた切れ者でありながら、「歯のない番犬」と見くびられ、また野心と反骨を老いの中に抱えこんだ男の肖像で。
あらすじ
天正十八年の真夏、北条攻めの小田原陣で、黒田如水は家康の陣屋を訪ねて会談した。二人の初対面は、のちに豊臣家を滅ぼす楔の一本だったが、石垣山で淀君と遊ぶ秀吉は知る由もない。秀吉が最も怖れた人物は家康、次いで如水だった。如水は頭に頑疾があり足も悪く、「チンバ」「カサ頭」と呼ばれる。若いころの彼は、織田信長の天下を逸早く見抜き、主家の小寺家に毛利ではなく織田方につくよう説いて、一身を賭けた。だが、主家の気持ちを軽く見たため、思わぬ変心に見舞われる。小田原包囲が三月もつづくなか、秀吉の命で如水は家康を訪問し、頭から爪先まで弓矢の金言でできたような男だと驚嘆する。家康も、このカサ頭の怪物を食えない化け物と見て、しかし与しやすいところもあると判断した。石垣山の楼上で、二十六万の大軍を操れるのは自分だけだと豪語した秀吉は、傍らの如水をからかって「チンバ、貴様もさぞ操れよう」と言う。如水はニコリともせず、自分が歯のない番犬と見くびられているのを知っていた。その陰に、本当は歯のある番犬の名として家康が隠されていることも。如水は、その犬に会ってみたいという思いを腹の底に育てていた。
登場人物
- 黒田如水 豊臣秀吉の軍師。頭に頑疾があり足も悪い
- 豊臣秀吉 二十六万の大軍で小田原を包囲する
- 徳川家康 名を捨てて実を取る気性の大物
冒頭部(原文より)
天正十八年真夏のひざかりであつた。小田原は北条征伐の最中で、秀吉二十六万の大軍が箱根足柄の山、相模の平野、海上一面に包囲陣をしいてゐる。その徳川陣屋で、家康と黒田如水が会談した。この二人が顔を合せたのはこの日が始まり。いはゞ豊臣家滅亡の楔が一本打たれたのだが、石垣山で淀君と遊んでゐた秀吉はそんなことは知らなかつた。 秀吉が最も怖れた人物は言ふまでもなく家康だ。
「黒田如水」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
だが、かういふ時に、なぜ、いつも、自分の名前がひきあひにでゝくるのだらう。二十六万の大軍を操る者は俺のみだと壮語して、それだけで済むことではないか。それは如水の名の裏に別の名前が隠されてゐるからである。歯のある番犬の名が隠されて、その不安が常に心中にあるからだ。それを如水は知つてゐた。その犬の名が家康であることも知つてゐた。その犬に会つてみたいといふ思ひが、肚底に逞しく育つてゐたのだ。
「黒田如水」坂口安吾(青空文庫)
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