一人ならじ(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
弱音を吐かぬ武士の不屈
- 歴史
- 文字数
- 10,317字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 山梨県
この作品について
山本周五郎が1944年(昭和19年)、「富士」に発表した時代小説。武田家に仕える二十人がしら・栃木大助は、どんな目にあっても「痛い」とも「弱った」とも決して口にしない、辛抱づよい男。その一途な忍耐と、婚約者・初穂への思いを描く。逆境に泣き言を言わず、あくまで前を向く若者の姿を通して、静かな励ましを伝える一編である。
あらすじ
栃木大助は、「痛い」ということを決して口にしない。「弱った」「参った」「困った」といった、およそ受け身に類する言葉を、どんな場合にも選って棄てるように使わないのである。甲斐の武田晴信の家来で、馬場信勝に属する二十人がしら——足軽二十人の頭という平凡な身分の、風貌もごく尋常な男だが、この一事だけは人の興味を惹いた。十五歳のとき、父が彼を「幼少よりがまん強く、かつて痛いと申したことがない」と披露して以来、仲間たちは隙を狙って音をあげさせようとするが、どうやっても弱音を吐かない。腕自慢の高折又七郎に馬乗りになられ、首をぐいぐい絞めつけられても、大助は堪えぬく。そんな不屈の忍耐の底には、婚約者・初穂への一途な思いがあった。物語の結び、まだ戦場での手柄がないために危うくなった婚約をめぐって、大助は初穂に誓う。「二年かかるか三年かかるかわからないが、わたくしは必ず戦場へ出るようになってみせます、そうすれば婚約をもどすことができる」。泪に濡れた初穂の顔が、そのとき輝くようにみえた。「わたくし戻ります……」——新しい希望に、その双眸は活き活きと輝くのだった。逆境に泣き言を言わぬ若者の姿を描いた、山本の一編である。
登場人物
- 栃木大助 弱音を吐かぬ武田家の二十人がしら
- 初穂 大助の婚約者
冒頭部(原文より)
栃木大助は「痛い」ということを云わない、またなにか具合の悪いことがあっても、「弱った」とか、「参った」とか、「困った」などということを決して云わない。そのほかどんな場合にもおよそ受け身に類する言葉は選って棄てるように口にしないのである。
「一人ならじ」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「二年かかるか三年かかるかわからないが、わたくしは必ず戦場へ出るようになってみせます、……初穂どの、そうすれば婚約をもどすことができる、そう思いませんか」 泪に濡れた初穂の顔がそのとき輝くようにみえた。いっぱいに瞠った眼は新しい希望に活き活きとした光を湛え、双の頬にはあざやかな紅がさした、そしてしっかりとした力のある声で云った。 「わたくし戻ります……」
「一人ならじ」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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