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わが血を追ふ人々(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

金鍔次兵衛の見た天草

  • 歴史

坂口安吾 1946年(昭和21年)1月 「近代文学」

文字数
10,546字
読了目安
約21分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 熊本県

この作品について

天草・島原の乱を、切支丹の神父金鍔次兵衛の目から描きはじめた坂口安吾の歴史小説。島の富豪渡辺小左衛門は、鳥銃をさげて冬山を歩く神父を悪魔のようだと感じる。次兵衛は、予言書を持ち回って少年ヒエロニモ四郎の奇蹟を宣伝させ、反乱を企てている。戦後の同人誌「近代文学」の創刊号に載った作品で、青空文庫の本文は「その一」にあたる導入部のみで、乱そのものにはまだ入らない。

あらすじ

天草の大矢野島に住む富豪の渡辺小左衛門は、鳥銃をさげて冬山を歩く男の姿に蛇に対するような嫌悪を覚える。その男は金鍔次兵衛と呼ばれる、日本に潜入した切支丹の神父で、神火を掲げて冬の海を泳ぎ渡り、荒れる夜の浜で自分を鞭打ってから眠った。彼は二十五年前の宣教師の予言書を持ち、五人の老人に宣伝させて、益田甚兵衛の子ヒエロニモ四郎を「善童」に仕立てていた。小左衛門は、彼の妻レシイナを一瞬ねめつけた陰惨な眼から、この男が平和な人々を破壊と死へ追い立てる悪魔だと悟り、レシイナの安全を恐れる。物語は数年前へ戻り、長崎の貿易商二官の店の丁稚だった十三歳の四郎が、江戸帰りの次兵衛と再会する場面を描く。次兵衛は少年の美貌に魅せられ、世の中がこのままであってはならないと吹き込んで送り出す。一年後、商いを終えた四郎は関ヶ原を通り、父の甚兵衛に「異教徒を亡ぼさなければなりません」と告げる。六年ぶりに故郷へ戻った四郎は聖母マリヤに似た美貌で人気を集め、そこへ次兵衛が小左衛門の土地を借りて現れる。次兵衛は九州全域での蜂起を夢想しながらレシイナへの激情も抱き、小左衛門はやがて気が狂いそうな思いに追い込まれる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 渡辺小左衛門は鳥銃をぶらさげて冬山をのそ/\とぶらついてゐる男のことを考へると、ちようど蛇の嫌ひな者が蛇を見たときと同じ嫌悪を感じた。この男が鳥銃をぶらさげて歩くには理由があるので、人に怪しまれず毎日野山を歩き廻るには猟人の風をするに限る。この男は最近この村へ越してきて、それも渡辺小左衛門を頼つて、彼の地所を借りうけた。

「わが血を追ふ人々」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その呟きの声が渡辺小左衛門の耳にきこえてくるのであつた。あの男はあらゆる平和な人々をみんな殺してしまふのだ。間違ひもなくそれを彼が直覚してゐた。野も山も、人も木も、静かな小さな島よ。どうなるのだらう。神とは何者であるか。そして、四郎は神の子であるか。あゝレシイナ、お前だけは私のそばから離れてくれるな。彼は気違ひになりさうだつた。

「わが血を追ふ人々」坂口安吾(青空文庫)

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