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幻影の盾(夏目漱石)のあらすじ・登場人物

盾の中にひらく永遠の恋

  • 幻想
  • 恋愛

夏目漱石 1905年(明治38年)4月 「ホトトギス」

文字数
22,178字
読了目安
約44分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

アーサー王時代の英国を舞台にした幻想的なロマンス。1905年(明治38年)4月、雑誌「ホトトギス」に発表され、初期短編集『漾虚集』に収められた。敵味方に分かれた城の若い騎士と姫の恋を、家伝の盾に宿る幻影という趣向で描く。「一心不乱と云う事を、目に見えぬ怪力をかり、縹緲たる背景の前に写し出そう」と考えて得た趣向だと漱石自身が前書きで述べており、絢爛な美文と西洋中世の意匠が横溢する異色の一篇。

あらすじ

アーサー大王の御代、白城に仕える若き騎士ウィリアムは、小山を三つ越えた夜鴉の城の姫クララと固く契りを交わしていた。ところが二十年来親しかった両家に確執が生じ、七日の後には夜鴉の城を屠れとの下知が下る。ウィリアムは、いつ誰が鍛えたとも知れぬ家伝の盾——夜叉の面が天地人を呪う不思議な盾——に望みを託し、老武者シーワルドの計らいでクララを南の国へ逃がそうとするが、船の帆柱に翻ったのは女が乗った合図の赤ではなかった。攻め落とされ炎に包まれる高櫓の上に、髪を振り乱した女の影を見たウィリアムは、馬を駆って夜を裂き、たどりついた林の池のほとりで一人の女に出会う。「恋に口惜しき命の占を、盾に問えかし、まぼろしの盾」。

登場人物

冒頭部(原文より)

遠き世の物語である。バロンと名乗るものの城を構え濠を環らして、人を屠り天に驕れる昔に帰れ。今代の話しではない。  何時の頃とも知らぬ。只アーサー大王の御代とのみ言い伝えたる世に、ブレトンの一士人がブレトンの一女子に懸想した事がある。その頃の恋はあだには出来ぬ。思う人の唇に燃ゆる情けの息を吹く為には、吾肱をも折らねばならぬ、吾頚をも挫かねばならぬ、時としては吾血潮さえ容赦もなく流さねばならなかった。

「幻影の盾」夏目漱石(青空文庫)

末尾部(原文より)

「南方の日の露に沈まぬうちに」とウィリアムは熱き唇をクララの唇につける。二人の唇の間に林檎の花の一片がはさまって濡れたままついている。 「この国の春は長えぞ」とクララ窘める如くに云う。ウィリアムは嬉しき声に Druerie ! と呼ぶ。クララも同じ様に Druerie ! と云う。籠の中なる鸚鵡が Druerie ! と鋭どき声を立てる。遙か下なる春の海もドルエリと答える。海の向うの遠山もドルエリと答える。――これは盾の中の世界である。しかしてウィリアムは盾である。

「幻影の盾」夏目漱石(青空文庫)

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