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春昼(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

夢に契る人妻と若い男

  • 幻想
  • 恋愛

泉鏡花 1906年(明治39年)11月 「新小説」

文字数
31,767字
読了目安
約1時間4分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 神奈川県

この作品について

相州逗子の春の一日を舞台にした幻想小説。1906年(明治39年)11月、雑誌「新小説」に発表された。散策に出た「散策子」が山寺の庵室で住職から聞かされるのは、去年この庵に寄寓していた若い男が、すれ違っただけの人妻に恋い焦がれたという話である。夢とうつつの境が溶けていく語り口は鏡花文学の到達点と評され、翌月発表の続篇「春昼後刻」と合わせて一篇をなす。

あらすじ

春の日盛り、鎌倉から逗子へと当てのない散策に出た「散策子」は、道すがら大蛇を見かけたことを畑の親仁に告げ、山ふところの岩殿寺へ石段を上っていく。観音堂の柱には、小野小町のうたた寝の歌を書きつけた懐紙が貼られていた。庵室に招じ入れられた散策子に、出家は去年の出来事を語りはじめる。この庵を借りていた東京の若い客人は、二度三度すれ違っただけの、土地の多額納税議員・玉脇斉之助の妻みをに恋い焦がれていた。ある夜、裏山の谷にある蛇の矢倉という横穴に忽然と現れた舞台で、その人と一緒に芝居を演じる夢を見た客人は、いま一度おなじ夢を見ようとして谷へ向かい、やがて海で死骸となって見つかったのだという。

登場人物

冒頭部(原文より)

「お爺さん、お爺さん。」 「はあ、私けえ。」  と、一言で直ぐ応じたのも、四辺が静かで他には誰もいなかった所為であろう。そうでないと、その皺だらけな額に、顱巻を緩くしたのに、ほかほかと春の日がさして、とろりと酔ったような顔色で、長閑かに鍬を使う様子が――あのまたその下の柔な土に、しっとりと汗ばみそうな、散りこぼれたら紅の夕陽の中に、ひらひらと入って行きそうな――暖い桃の花を、燃え立つばかり揺ぶって頻に囀っている鳥の音こそ、何か話をするように聞こうけれども、人の声を耳にして、それが自分を呼ぶのだとは、急に心付きそうもない、恍惚とした形であった。

「春昼」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

客人はまたその晩のような芝居が見たくなったのでございましょう。  死骸は海で見つかりました。  蛇の矢倉と言うのは、この裏山の二ツ目の裾に、水のたまった、むかしからある横穴で、わッというと、おう――と底知れず奥の方へ十里も広がって響きます。水は海まで続いていると申伝えるでありますが、如何なものでございますかな。」  雨が二階家の方からかかって来た。音ばかりして草も濡らさず、裾があって、路を通うようである。美人の霊が誘われたろう。雲の黒髪、桃色衣、菜種の上を蝶を連れて、庭に来て、陽炎と並んで立って、しめやかに窓を覗いた。

「春昼」泉鏡花(青空文庫)

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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