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薤露行(夏目漱石)のあらすじ・登場人物

円卓の騎士をめぐる悲恋

  • 幻想
  • 恋愛

夏目漱石 1905年(明治38年)11月 「中央公論」

文字数
19,925字
読了目安
約40分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

マロリー『アーサー王の死』に材を取った翻案小説。1905年(明治38年)11月、雑誌「中央公論」に発表され、初期短編集『漾虚集』に収められた。表題の「薤露」は、にらの葉に置く露のはかなさに人の命をたとえた中国古来の挽歌の名。円卓の騎士ランスロットをめぐる王妃ギニヴィアと乙女エレーンの物語を、「夢」「鏡」「袖」「罪」「舟」の五章に構成し、格調の高い雅文体で綴っている。

あらすじ

騎士たちが北の試合へ発ったカメロットの館で、王妃ギニヴィアはランスロットと人目を忍ぶ逢瀬を重ねていた。黄金の蛇が髪を巻く不吉な夢を語り、疑いを避けるため試合へ行けと促す王妃に応じて、ランスロットは後れ馳せに北へ向かう。途中に宿を借りたアストラットの古城では、乙女エレーンが一目で恋に落ち、夜半に燃えるような紅の片袖を差し出して兜に巻けと願い、騎士は形見に盾を残して去った。折しも、鏡に映る世だけを見て機を織るシャロットの女は、街道をゆくその姿を直に見ようとして鏡を砕く。試合で名を挙げながら深手を負って姿を消したランスロットを、王妃は赤い袖の主への嫉妬に苛まれつつ待ち、宮廷ではモードレッドらが王妃の罪を告発する。一方、恋に痩せ細ったエレーンは遺言を残して息絶え、その亡骸は文を握らされたまま舟に乗せられ、カメロットの水門へ流れ着く。

登場人物

冒頭部(原文より)

百、二百、簇がる騎士は数をつくして北の方なる試合へと急げば、石に古りたるカメロットの館には、ただ王妃ギニヴィアの長く牽く衣の裾の響のみ残る。  薄紅の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、裳のみは軽く捌く珠の履をつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。登り詰めたる階の正面には大いなる花を鈍色の奥に織り込める戸帳が、人なきをかこち顔なる様にてそよとも動かぬ。

「薤露行」夏目漱石(青空文庫)

末尾部(原文より)

エレーンの屍は凡ての屍のうちにて最も美しい。涼しき顔を、雲と乱るる黄金の髪に埋めて、笑える如く横わる。  王は厳かなる声にて「何者ぞ」と問う。櫂の手を休めたる老人は唖の如く口を開かぬ。ギニヴィアはつと石階を下りて、乱るる百合の花の中より、エレーンの右の手に握る文を取り上げて何事と封を切る。  悲しき声はまた水を渡りて、「……うつくしき……恋、色や……うつろう」と細き糸ふって波うたせたる時の如くに人々の耳を貫く。  読み終りたるギニヴィアは、腰をのして舟の中なるエレーンの額――透き徹るエレーンの額に、顫えたる唇をつけつつ「美くしき少女!」という。同時に一滴の熱き涙はエレーンの冷たき頬の上に落つる。  十三人の騎士は目と目を見合せた。

「薤露行」夏目漱石(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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