薬草取(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
母のため紅い花を求めて
- 幻想
- 恋愛
- 文字数
- 18,759字
- 読了目安
- 約38分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 石川県
この作品について
加賀の医王山を舞台にした幻想小説。1903年(明治36年)5月、「二六新報」に連載された。病人のための薬草を求めて山に入った医学生が、道連れとなった花売りの女に、幼い日の不思議な体験を語る。月夜に紅く輝く花を求めて山賊にさらわれ、賊に囲われた美しい娘に救われた記憶である。「高野聖」と並ぶ山中幻想譚として、鏡花文学のなかでも高く評価されている。
あらすじ
夏の初め、経を誦しながら医王山を分け入る高坂は、背後から「もし憚ながらお布施申しましょう」と呼びかけられて振り返る。加賀笠をかぶり花籠を背負った花売りの女であった。禁山の道を案内してもらいながら、高坂は自らの来し方を語りはじめる。二十年前、母が重い病に倒れたとき、幼い彼は月夜に紅く輝く花を母の髪に挿せば病が治ると思い定め、家を抜け出して山を目指した。渡し場を越え、雨に打たれ、たどり着いた先は山賊の隠れ家だった。彼を憐れんだ美しい娘が、鎌を手に立ちはだかる魔物を退けて美女ヶ原へ導き、ついに紅の花を摘んでくれる。だがその娘は——。いま再びその薬が要る身となって、高坂は山に来たのである。
登場人物
- 高坂 薬草を採りに医王山へ入った医学生。幼い日の体験を花売りの女に語る
- 花売りの女 山で高坂に声をかけ、美女ヶ原まで道連れとなる不思議な女
- 娘 幼い高坂を救い、鎌を手に魔物を退けて紅い花を摘んでくれた女
- 高坂の母 病に倒れ、その花によって一度は本復した人
冒頭部(原文より)
「もし憚ながらお布施申しましょう。」 背後から呼ぶ優しい声に、医王山の半腹、樹木の鬱葱たる中を出でて、ふと夜の明けたように、空澄み、気清く、時しも夏の初を、秋見る昼の月の如く、前途遥なる高峰の上に日輪を仰いだ高坂は、愕然として振返った。 人の声を聞き、姿を見ようとは、夢にも思わぬまで、遠く里を離れて、はや山深く入っていたのに、呼懸けたのは女であった。
「薬草取」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「ああ、お可懐い。思うお方の御病気はきっとそれで治ります。」 あわれ、高坂が緊乎と留めた手は徒に茎を掴んで、袂は空に、美女ヶ原は咲満ちたまま、ゆらゆらと前へ出たように覚えて、人の姿は遠くなった。 立って追おうとすると、岩に牡丹の咲重って、白き象の大なる頭の如き頂へ、雲に入るよう衝と立った時、一度その鮮明な眉が見えたが、月に風なき野となんぬ。 高坂はと坐した。 かくて胸なる紅の一輪を栞に、傍の芍薬の花、方一尺なるに経を据えて、合掌して、薬王品を夜もすがら。
「薬草取」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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