護持院原の敵討(森鴎外)のあらすじ・登場人物
父の敵を追う長い旅
- 歴史
- 家族
- 文字数
- 21,681字
- 読了目安
- 約43分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
- 大阪府
この作品について
天保四年の暮れ、姫路藩酒井家の江戸屋敷で金奉行の山本三右衛門が、手紙を届けに来た小使の亀蔵に斬られて落命する。十九歳の息子・宇平と娘・りよ、姫路から駆けつけた叔父・九郎右衛門、そして従者の文吉は、行方をくらました亀蔵を求めて日本中を一年以上旅する。実際にあった敵討ちを題材に、長い旅の苦労と、頼りない若者の変調を、感情を抑えた簡潔な筆致で描く鴎外の歴史小説。
あらすじ
天保四年の暮れ、姫路藩主酒井家の江戸上屋敷で、金奉行の山本三右衛門が、急用の手紙を届けに来た小使の亀蔵に斬りつけられ、翌日息を引き取る。残された十九歳の息子・宇平と、細川家の奥に勤める娘のりよは敵討ちを決意し、姫路から駆けつけた叔父の九郎右衛門が助太刀に立つ。ところが出立の支度のさなかに江戸は大火に見舞われ、一家は家を焼かれてしまう。りよは自分も旅に出たいと願うが、叔父に女は連れて行けぬと言い渡され、江戸に残ることになる。九郎右衛門と宇平は、近江出身の若者・文吉を家来に加え、三人で江戸を発つ。高崎、松阪、四国、長崎と各地をめぐり、敵の足跡をたどって手がかりを追うが、居場所はつかめず、路銀も乏しくなって大阪の木賃宿で暮らすようになる。そこで病に倒れた宇平は、病後にすっかり人が変わり、ある日、叔父に神仏への疑いを突きつけたまま姿を消してしまう。取り残された九郎右衛門と文吉のもとへ、江戸から手紙が届く。亀蔵が江戸に舞い戻っていると、りよの親類が聞き込んだのだった。二人は盂蘭盆の夜、両国の花火の人混みの中で亀蔵を見つけ、神田橋外の護持院が原まで尾けて取り押さえる。呼び出されたりよが父の敵に一太刀を浴びせ、九郎右衛門がとどめを刺して本懐を遂げる。
登場人物
- 山本三右衛門 酒井家の大金奉行。亀蔵に斬られ、翌日に死去する
- 宇平 三右衛門の息子(十九歳)。色の蒼い、世馴れぬおとなしい若者
- りよ 三右衛門の娘。細川家の奥に勤めていた。気丈で、父の敵討ちに加わることを望む
- 山本九郎右衛門 三右衛門の弟。姫路から助太刀に駆けつける、沈着で口数の少ない叔父
- 文吉 近江出身の元仲間。宇平の家来となり、旅に付き従う
- 亀蔵 酒井家の表小使。三右衛門を斬って逃亡する
冒頭部(原文より)
播磨国飾東郡姫路の城主酒井雅楽頭忠実の上邸は、江戸城の大手向左角にあった。そこの金部屋には、いつも侍が二人ずつ泊ることになっていた。然るに天保四年癸巳の歳十二月二十六日の卯の刻過の事である。当年五十五歳になる、大金奉行山本三右衛門と云う老人が、唯一人すわっている。ゆうべ一しょに泊る筈の小金奉行が病気引をしたので、寂しい夜寒を一人で凌いだのである。傍には骨の太い、がっしりした行燈がある。燈心に花が咲いて薄暗くなった、橙黄色の火が、黎明の窓の明りと、等分に部屋を領している。夜具はもう夜具葛籠にしまってある。
「護持院原の敵討」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
この敵討のあった時、屋代太郎弘賢は七十八歳で、九郎右衛門、りよに賞美の歌を贈った。 「又もあらじ魂祭るてふ折に逢ひて父兄の仇討ちしたぐひは」幸に太田七左衛門が死んでから十二年程立っているので、もうパロヂイを作って屋代を揶揄うものもなかった。
「護持院原の敵討」森鴎外(青空文庫)
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