魚服記(太宰治)のあらすじ・登場人物
滝のほとりで暮らす少女
- 幻想
- 文字数
- 5,169字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 青森県
この作品について
太宰治が1933年(昭和8年)3月、同人誌『海豹』に発表した初期の短編。のちに処女創作集『晩年』に収められた。津軽の山中、馬禿山の滝のほとりの茶屋で、炭焼きの父とふたりきりで暮らす少女スワを主人公に、山の四季のなかで育つ少女が、自分の心と体の変わりゆくことにとまどう姿を描く。透明な文体のなかに、太宰の詩情と暗さが同居する。
あらすじ
本州北端の馬禿山。滝のほとりの茶屋で、少女スワは炭焼きの父とふたりきりで暮らしている。夏には滝見の客を相手にし、山の四季のなかで蛇や魚、木々に囲まれて育つ。ある年、滝壺に落ちて死んだ学生の噂を聞き、スワの心にも死の影がよぎる。やがて彼女は少女から女へと変わりゆく自分にとまどうようになる。山を下る客も絶えた雪の季節、ある嵐の夜、小屋で父と過ごすうちに、スワの胸に得体の知れぬ思いがきざす。翌朝、彼女は滝壺へと身を投げる。水に沈んだスワは一匹の鮒となり、しばらく岸辺や岩のあいだを漂ったのち、ふたたび滝壺の渦へと吸い込まれていくのだった。
登場人物
- スワ 滝のほとりで父と暮らす少女
- 父 炭焼きを生業とする、スワの父
冒頭部(原文より)
本州の北端の山脈は、ぼんじゅ山脈というのである。せいぜい三四百米ほどの丘陵が起伏しているのであるから、ふつうの地図には載っていない。むかし、このへん一帯はひろびろした海であったそうで、義経が家来たちを連れて北へ北へと亡命して行って、はるか蝦夷の土地へ渡ろうとここを船でとおったということである。
「魚服記」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
それから鮒はじっとうごかなくなった。時折、胸鰭をこまかくそよがせるだけである。なにか考えているらしかった。しばらくそうしていた。やがてからだをくねらせながらまっすぐに滝壺へむかって行った。たちまち、くるくると木の葉のように吸いこまれた。
「魚服記」太宰治(青空文庫)
名文
本州の北端の山脈は、ぼんじゅ山脈というのである。せいぜい三四百米ほどの丘陵が起伏しているのであるから、ふつうの地図には載っていない。
太宰治『魚服記』(1933年)の書き出し。地図にも載らない北の山並みを、義経伝説を交えて語り起こす。民話のような語りの中で、炭焼き小屋に暮らす少女スワの物語が始まる。
原文を読む
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