開扉一妖帖(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
ビルの階段に現れた妖
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 19,899字
- 読了目安
- 約40分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
ビルディングの階段を舞台にした晩年の怪異譚。1933年(昭和8年)7月に発表された。心臓の弱い新聞記者が、環海ビルジングの暗い石段で息を切らして倒れる。そこへ現れた女が語りはじめるのは、焼け出された吉原の小浜屋の芸妓たちの流転と、奥州の野宿で出会った異形の若者の話であった。近代のビルの内側に廓の亡霊を呼び込む、鏡花独自の怪奇の世界。
あらすじ
新聞学芸部の記者・松村信也は、酒の酔いと弱い心臓のせいで、環海ビルジングの三階へ上る石段で息が切れ、仰向けに倒れかかった。草も木も影もない、四面の壁ばかりの鉄枴ヶ峰である。そこへ、きつけの水を汲もうと現れた女——つぶし餡のお妻が、信也を介抱しながら身の上を語りはじめる。吉原の引手茶屋・小浜屋には、お妻とお民と京千代の三人の芸妓がいた。焼け出されて浜町へ流れ、青森の裏借屋へ落ち、野宿の果てに堂の供物を漁る若い男に出会った日のこと。話が奥へ進むほど、締めた覚えのない扉が、静かに開いていく。
登場人物
- 松村信也 東――新聞学芸部の記者。ビルの階段で倒れる
- お妻 もと吉原の小浜屋の芸妓。信也を介抱しながら流転の身の上を語る
- お民・京千代 小浜屋のお妻の姉妹分にあたる芸妓たち
- 矢藤伊作 小浜屋にゆかりの老人。世功を積んだ苦労人
冒頭部(原文より)
ただ仰向けに倒れなかったばかりだったそうである、松村信也氏――こう真面目に名のったのでは、この話の模様だと、御当人少々極りが悪いかも知れない。信也氏は東――新聞、学芸部の記者である。 何しろ……胸さきの苦しさに、ほとんど前後を忘じたが、あとで注意すると、環海ビルジング――帯暗白堊、五階建の、ちょうど、昇って三階目、空に聳えた滑かに巨大なる巌を、みしと切組んだようで、芬と湿りを帯びた階段を、その上へなお攀上ろうとする廊下であった。
「開扉一妖帖」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
どうも、あけ方が約束に背いたので、はじめから、鍵はかかっていなかったらしい。ただ信也氏が手を掛けて試みなかったのは、他に責を転じたのではない。空室らしい事は分っていたから。しかし、その、あえてする事をためらったのは、卑怯ともいえ、消極的な道徳、いや礼儀であった。 つい信也氏も誘われた。 する事も、いう事も、かりそめながら、懐紙の九ツの坊さんで、力およばず、うつくしいばけものの、雪おんな、雪女郎の、……手も袖もまだ見ない、膚であいた室である。 一室――ここへ入ってからの第二の……第三の妖は…………………
「開扉一妖帖」泉鏡花(青空文庫)
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