朝に就ての童話的構図(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
蟻の歩哨が見つけた白い工事
- 幻想
- 文字数
- 1,420字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字旧仮名
この作品について
宮沢賢治が亡くなる半年前の1933年(昭和8年)3月、雑誌「天才人」第六輯に発表した短編。霧の降る苔の野原で、蟻の歩哨が、突然現れた白い建物のような「大きな工事」を警戒し、子供の蟻を伝令に走らせる。正体はきのこだったというユーモラスな顛末を、軍隊の用語や陸地測量部といった堅い言葉遣いで描く。小さな生き物の世界の朝を、童話的な構図で切り取った明るい小品である。
あらすじ
苔いちめんに霧が降る朝、蟻の歩哨は鉄の帽子のひさしの下から鋭い目であたりをにらみ、羊歯の森の前を行き来している。やってきた蟻の伝令を、銃剣を向けて詳しく検べてから通す。霧が薄れて草木が水を吸う音が聞こえ出し、さすがの歩哨も眠気にふらつく。そこへ二匹の蟻の子供が来て、楢の木の下に昨日はなかった真っ白な家ができていると告げる。歩哨は大変だと言い、一匹をアルキル中佐のもとへ、一匹を陸地測量部へ走らせ、北緯二十五度東経六厘の処に目的のわからない大きな工事ができたと伝えさせる。白い建物は震えながら大きくなり、やがて柱が折れてすっかり倒れる。戻ってきた子供たちは、あれはきのこで、すぐなくなるから地図に入れなくてよいと言われたと報告する。歩哨は少しきまり悪そうにする。向こうには魚の骨の形をした灰色のきのこが生えてくるので、子供たちは笑い転げる。やがて大きな赤い日が霧の向こうから昇り、歩哨はまた厳めしく銃剣を構える。
登場人物
- 蟻の歩哨 苔の野原を見張る兵隊。白い建物を見て子供らに伝令を頼む
- 二匹の蟻の子供 歩哨の頼みで、アルキル中佐と陸地測量部へ走る
- アルキル中佐 蟻の連隊の指揮官(話にのみ登場)
冒頭部(原文より)
苔いちめんに、霧がぽしやぽしや降つて、蟻の歩哨は、鉄の帽子のひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯の森の前をあちこち行つたり来たりしてゐます。 向ふからぷるぷるぷるぷる一ぴきの蟻の兵隊が走つて来ます。
「朝に就ての童話的構図」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
「なあんだ。あつ。あんなやつも出て来たぞ」 向ふに魚の骨の形をした灰いろのをかしなきのこが、とぼけたやうに光りながら、枝がついたり手が出たりだんだん地面からのびあがつてきます。二疋の蟻の子供らは、それを指さして、笑つて笑つて笑ひます。 そのとき霧の向ふから、大きな赤い日がのぼり、羊歯もすぎごけもにはかにぱつと青くなり、蟻の歩哨は、また厳めしくスナイドル式銃剣を南の方へ構へました。
「朝に就ての童話的構図」宮沢賢治(青空文庫)
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