葉(太宰治)のあらすじ・登場人物
撰ばれてあることの恍惚と不安
- 心理
- 文字数
- 9,579字
- 読了目安
- 約19分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
太宰治の初期を代表する断章集。「撰ばれてあることの恍惚と不安と二つわれにあり」というヴェルレーヌの詩句に始まる、短い断片を連ねた作品で、後に第一創作集「晩年」の巻頭に置かれた。死を意識した青年の、瑞々しくも危うい感性が、断片のきらめきのなかに結晶している。
あらすじ
「撰ばれてあることの/恍惚と不安と/二つわれにあり」——ヴェルレーヌのこの詩句に始まる「葉」は、物語を持たない。それは、短い断片をいくつも連ねた、散文詩のような作品である。死の予感、少年時代の追憶、故郷への思い、恥と誇り、家族、そして文学への渇き——脈絡なく置かれた一つ一つの断片が、青年の張りつめた感受性のかけらとして、鮮やかにきらめく。「死のうと思っていた」という有名な一句もここにある。太宰は、自らの命を絶とうとした青年の心象を、物語ではなく断章の連なりとして提示することで、かえって生々しい実感を立ちのぼらせる。後に第一創作集「晩年」の巻頭を飾ったこの作品は、太宰文学の出発点であり、その原質がすべて含まれているとも評される。「いくつもいくつも/うつっているのさ/どうにか、なる」と結ばれる、瑞々しくも危うい断章集である。
冒頭部(原文より)
撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり ヴェルレエヌ
「葉」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
いくつもいくつも うつっているのさ どうにか、なる。
「葉」太宰治(青空文庫)
名文
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
連作形式の初期作品の書き出し。死を思う重い一行が、贈られた夏物の着物という些細なきっかけで「夏まで生きていようと思った」へと転じる。太宰の文体の妙が凝縮された冒頭。
撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり
第一創作集『晩年』の巻頭作に掲げられたヴェルレーヌの詩句。選ばれた者の陶酔と不安を併せ持つ、太宰文学の自意識を象徴する言葉として知られる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。