恥(太宰治)のあらすじ・登場人物
小説家なんて、人の屑よ
- 心理
- 風刺
- 文字数
- 7,574字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
小説家に憧れてファンレターを書いた若い女性が、思いきって会いに行き、こっぴどい「恥」をかく——友人への手紙という形式で書かれた、太宰治の女性一人称小説。恋する読者の思いこみと、その裏切られ方が痛いほど可笑しく、そして最後は書き手自身の思いこみの正体が読者に見えてくる。
あらすじ
「菊子さん。恥をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました」——友人に宛てた手紙のかたちで、この告白は始まる。顔から火が出るという形容はなまぬるい、草原をころげ廻ってわあっと叫びたい。書き手の和子は、小説家の戸田氏にこっそり手紙を出していたことを打ち明ける。九月のはじめ、たいへん気取った文面で「おそらく貴下の小説には、女の読者がひとりも無かった事と存じます」と書き送ったのだ。やがて返事が来て、和子は舞い上がる。戸田氏の小説に描かれた貧しく汚れた「私」の姿を思い浮かべ、みすぼらしい身なりで訪ねていくのが礼儀だと考えた和子は、わざと薄汚い服装をととのえ、前歯まで欠けさせるほどの覚悟で戸田家を訪ねた。ところが現れた戸田氏は、小説の中の人物とは似ても似つかぬ、こざっぱりした家庭の主であった。話はまるでかみ合わず、和子は冷たくあしらわれて追い返される。後日、戸田氏から小包が届く。ふるえる手で開けてみると、中はからっぽ——自分の出した二通の手紙が返ってきただけで、何ひとつ書き添えられていなかった。レターペーパーの裏まで丹念に調べたが、白紙のままである。「この恥ずかしさ。おわかりでしょうか。頭から灰でもかぶりたい」。小説家なんて、つまらない、人の屑だわ——そう毒づく和子の言葉のうしろに、彼女自身の思いこみの滑稽さが透けて見える仕掛けになっている。
登場人物
- 和子 小説家に手紙を出した若い女性
- 菊子さん 和子が手紙を書く相手の友人
- 戸田氏 和子が憧れた小説家
冒頭部(原文より)
菊子さん。恥をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わあっと叫びたい、と言っても未だ足りない。サムエル後書にありました。「タマル、灰を其の首に蒙り、着たる振袖を裂き、手を首にのせて、呼わりつつ去ゆけり」可愛そうな妹タマル。
「恥」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
この恥ずかしさ。おわかりでしょうか。頭から灰でもかぶりたい。私は十年も、としをとりました。小説家なんて、つまらない。人の屑だわ。嘘ばっかり書いている。ちっともロマンチックではないんだもの。普通の家庭に落ち附いて、そうして薄汚い身なりの、前歯の欠けた娘を、冷く軽蔑して見送りもせず、永遠に他人の顔をして澄ましていようというんだから、すさまじいや。
「恥」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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