アプリで読む

無料・登録不要

退歩主義者(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

下へ下へと退歩の道

  • 風刺
  • 心理

坂口安吾 1949年(昭和24年)7月 「月刊読売」

文字数
9,703字
読了目安
約19分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

敗戦後の浅草を舞台に、並外れた大食いの青年「馬吉」の転落を、乾いたユーモアで描いた坂口安吾の短編。昭和24年、「月刊読売」の夏期臨時増刊号に発表された。「退歩主義」を名乗る馬吉は、婿入りも劇団の下働きも食い扶持のためにしくじってゆく。食糧難の時代の飢えと、人情の薄れた世の中を、くだけた会話文で滑稽に、しかし後味の苦い結末へ運ぶ作品である。

あらすじ

馬吉は二十五歳、人の三人前は食わなければ身がもたない大食いで、学徒兵から復員すると、浅草の生家は焼け、母は屋台のオデン屋の女房に収まっていた。新しい父と母は、食いつぶす馬吉を持て余し、埼玉の農家のウスバカの一人娘のもとへ婿に出す。花嫁は歯が一本残らず虫歯で、馬吉は退歩にも限界があると悟って逃げだし、浅草の劇団に自作の脚本を持ち込んで下働きに潜り込む。一度だけ舞台でうけたものの長くは続かず、人の飯を盗み食いするので団員の誰にも泊めてもらえなくなり、劇団を追い出される。野宿を重ね、女優の弁当や吸いさしをあさって暮らすうち、馬吉は文明とは上から下へ落ちることだと説くが、行き詰まるばかりである。座長の品川一平のアパートに忍び込んで米を炊いて食べているところを、帰ってきた一平に見つかる。退職手当を出せと言いだした馬吉は、一平に張り倒されるうち台所の出刃庖丁を手にして、一平を刺し殺してしまう。駆けつけた人々に向かって「退歩しなきゃ、いけないです」と叫ぶと、満腹のせいか老猫のような鼻息で眠りこけた。馬吉は分裂病と診断されたが、本人は退歩主義者を名乗り、学説を書いては破り捨てている。

登場人物

冒頭部(原文より)

馬吉の思想は退歩主義というのである。猫もシャクシも実存主義とか共産主義などゝ月並な旗印をかゝげている時世に、とにかく誰の耳にもきゝなれない退歩主義という一流を編みだしたところは、馬吉タダの鼠に非ず、と申さなければならない。  馬吉というのは勿論アダナで、大食いというところからきている。五尺四寸五分、十五貫といえば、あたりまえの日本人で、顔形に異形なところはないのだが、因果なことに、並の健康人の三人前ぐらい食わなければ身が持たないという時世に向かない胃袋の持主である。当年二十五歳。そこで彼の職業は、という段になると、説明がいる。

「退歩主義者」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

馬吉は分裂病という判定をうけたけれども、本人は退歩主義者と自称して、時々学説を書いては破りすてゝいるのである。

「退歩主義者」坂口安吾(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品