行雲流水(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
意地を張る娘と愚かな男たち
- 風刺
- 心理
- 文字数
- 10,645字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
終戦後の町の寺を舞台に、将棋とどぶろく造りに熱中するのんきな和尚と、寺の裏に住む十八歳のソノ子、彼女に入れあげる男たちの顛末を描いた短編。「お尻をヒッパタかれたパンスケ」と呼ばれる娘の意地と、それに振り回される男たちが、和尚の目と威勢のよい口語の会話で語られる。題の「行雲流水」が何を指すかが皮肉に響く。初出は「オール読物」1949(昭和24)年9月号。
あらすじ
寺の向かいの漬物屋のオカミサンが、息子の吾吉が裏の家のソノ子というパンスケに惚れこんだと、和尚に説教を頼みにくる。和尚は将棋とドブロク造りに夢中で、お経を縮めてしまうノンキな人物だが、町内の世話係として吾吉の恋の取りもちを引き受ける。ソノ子は大工の娘で、終戦後に病気の父と弟妹を養うためパンスケをはじめた。家へ男を引きこむのに怒った父に尻をひっぱたかれ、父はそのまま吐血して息絶えた。ソノ子はこの尻を意地にして、一生パンパンで通すと言い、吾吉との縁談をはねつける。ところが数日して吾吉は会社の金を使いこんで姿を消し、やがてサガミ湖の山林で首をくくって死んでいるのが見つかる。骨壺は夜ごとガタガタと鳴り、前歯には「三十」の文字が浮かんでいた。三十万円の恨みだと言う和尚に、ソノ子は少しも怖れず、これから何人でもこうなるでしょうと笑い捨てる。ソノ子の深間の男も公金を持ち逃げした身で、一緒に死んでくれと迫る。ソノ子は桃割れに髪を結い、並んで線路に横たわるが、一番列車が来る間際に頭をひいて、髪だけを轢かせて溝に身を隠す。男は首を切られて死に、ソノ子は髪の毛がすっかり抜けたものの無事だった。見つけた和尚は逆上してソノ子の尻をひっぱたくが、一向に救われない。髪は一年もすれば生える。ソノ子は少しも困らず、これからは心中などせず、ウスノロを徹底的にしぼってやろうと決心するだけだった。
登場人物
- ソノ子 大工の娘。十八歳。父の死後、弟妹を養うためパンスケになり、意地を通す
- 和尚 将棋とドブロク造りに熱中するノンキな寺の和尚。町内の世話係
- 吾吉 漬物屋の息子。ソノ子に入れあげる
- 漬物屋のオカミサン 吾吉の母。威勢のよい口をきく
冒頭部(原文より)
「和尚さん。大変でございます」 と云って飛びこんできたのは、お寺の向いの漬物屋のオカミサンであった。 「何が大変だ」 「ウチの吾吉の野郎が女に惚れやがったんですよ。その女というのが、お寺の裏のお尻をヒッパタかれたあのパンスケじゃありませんか。情けないことになりやがったもんですよ。私もね、吾吉の野郎のお尻をヒッパタいてくれようかと思いましたけどネ。マア、和尚さんにたのんで、あの野郎に説教していただこうと、こう思いましてネ」
「行雲流水」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
和尚は然し、一つの闘争でもあったのだろう。そのくせ、和尚はそれによって一向に救われなかった。 結論として云えば、吾吉の亡魂がかねての宿願を果してソノ子を坊主頭にしたという一つの成就があるだけであった。 髪の毛は一年もたてば生えるものだ。ソノ子は全然こまらなかった。そして、もう、これから先は心中などせずに、ウスノロを徹底的にしぼッて苦しめてやろうと決心したゞけのことであった。
「行雲流水」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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