薄明(太宰治)のあらすじ・登場人物
空襲と娘の眼病の夏
- 家族
- 心理
- 文字数
- 9,073字
- 読了目安
- 約18分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 山梨県
この作品について
1946年(昭和21年)12月に新紀元社から刊行された小説集『薄明』の表題作。太平洋戦争末期、三鷹の家を爆撃で失った一家が妻の実家の甲府に身を寄せ、そこでも空襲に遭う体験を、幼い娘の眼病という切実な不安を軸に描く。太宰自身の疎開体験に重なる内容で、焼夷弾の下で娘を背負って逃げる場面と、焼け跡で眼が開く結末の対比が印象的。
あらすじ
昭和二十年四月、三鷹の家を爆弾で壊され、一家は妻の里の甲府へ疎開する。三十七歳の私と妻、五歳の長女、二歳の長男は、妻の妹の家で気を遣いながら暮らす。六月、甲府が焼かれるという噂が流れ、皆で食料や日用品を庭に埋めて備える。折しも子どもたちが流行性結膜炎にかかり、長女は目が開かなくなる。空襲の夜、私は失明状態の長女を背負い、妻と田圃へ逃げて焼夷弾の火を蒲団で消し、夜明けに焼け跡へ戻ると家は全焼、埋めた物だけが残っていた。義妹が駆けつけ、懐中時計が一つ残ったが、長女が落として割ってしまう。知人の家に移り、焼け出された県立病院の女医の治療で二日後、長女の目はあく。焼け跡を見せると、長女は「みんな焼けちゃったね」と微笑する。
登場人物
- 私 三十七歳の作家。疎開先の甲府で空襲に遭う
- 妻 三十四歳。下の男の子を背負って夫と逃げる
- 長女 五歳。流行性結膜炎で目が開かなくなる
- 義妹 妻の妹。二十六、七歳で、落ち着いて家を守る
冒頭部(原文より)
東京の三鷹の住居を爆弾でこわされたので、妻の里の甲府へ、一家は移住した。甲府の妻の実家には、妻の妹がひとりで住んでいたのである。 昭和二十年の四月上旬であった。聯合機は甲府の空をたびたび通過するが、しかし、投弾はほとんど一度も無かった。
「薄明」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
私はただやたらに、よかった、よかったを連発し、そうして早速、家の焼跡を見せにつれて行った。 「ね、お家が焼けちゃったろう?」 「ああ、焼けたね。」と子供は微笑している。 「兎さんも、お靴も、小田桐さんのところも、茅野さんのところも、みんな焼けちゃったんだよ。」 「ああ、みんな焼けちゃったね。」と言って、やはり微笑している。
「薄明」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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