ふるさとびと(堀辰雄)のあらすじ・登場人物
寂れた古駅に生きる本陣の女
- 心理
- 家族
- 文字数
- 12,089字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
この作品について
堀辰雄が1943年(昭和18)1月の雑誌「新潮」に発表した短編。長編『菜穂子』と同じ信州の古い宿場を舞台にし、三村夫人と菜穂子も脇役として顔を見せる。主人公は、昔の本陣「牡丹屋」に生まれたおえふ。若くして避暑地のホテルに嫁いだものの離別し、幼い娘を抱えて、寂れた宿場の生家で親たちと暮らしている。外国人宣教師の別荘地として栄えはじめた隣村と、取り残された古駅の対比を背景に、夏ごとに訪れる学生たち、狩りに明け暮れる弟、家をめぐる親類とのいざこざなど、一家の歳月を淡々と追う。堀はこの作品をさらに発展させる構想を持っていたが、実現しなかった。原文は旧字旧仮名で書かれている。
あらすじ
浅間山麓の宿場、分去れの村は、鉄道に素通りされて寒村になっていた。もとの本陣、牡丹屋に生まれたおえふは、父の草平が隣村の停車場前に開いた店で育ち、十九の春、外国人相手に成功した蔦ホテルの長男に嫁ぐ。だが一年後、娘の初枝を生みに実家へ帰ったきり、理由も言わずに戻らなかった。父が隠居して古い牡丹屋に移ると、おえふも娘と移り住み、夏は勉強に来る学生たちの世話をして働いた。ある夏、三村夫人と菜穂子の連れの背の高い男が、おえふに鋭い目ざしを向けて通り過ぎる。何年たってもおえふは若く美しかったが、初枝は十二の冬に雪道で転んで脊髄を患い、寝たきりになる。弟の五郎は家業に身を入れず、犬のジャックを連れて猟に明け暮れた。東京から手紙が届くようになり、おえふは娘の死をふと願う自分に気づくが、初枝の容態が悪くなると我に返り、看病に身を捧げる。老いた父は昔の野分の村を思い浮かべながら死に、その後、本家が牡丹屋の明け渡しを言い出して争いになる。五郎は小諸の芸者だったおしげを妻にしたが、リウマチスで寝たきりになった。冬には駆け落ちらしい男女が林の空き家で暮らし、荒んだ二人の姿におえふは心を揺さぶられる。やがて古駅を訪ねる人がふえ、跛の若者捨吉が奉公に来る。学生たちが牡丹屋の崩れる日を噂し合うのを聞いて、おえふは家を手放すより崩れて一しょに死ねたらと思う。秋、最後の学生松平は駅で捨吉に、信州はずいぶん淋しいところだと言われ、浅間の煙を黙って見上げた。
登場人物
- おえふ もとの本陣、牡丹屋の娘。蔦ホテルの長男と離別し、娘と生家で暮らす
- 初枝 おえふの娘。十二の冬に脊髄を患う
- 草平 おえふの父。牡丹屋の後見として家を立て直した
- 五郎 おえふの弟。猟に明け暮れる
- おしげ 五郎の妻。もと小諸の芸者
- 捨吉 高崎の在から奉公に来た若者
- 松平 牡丹屋に滞在する美術史専攻の学生
冒頭部(原文より)
一 おえふがまだ二十かそこいらで、もう夫と離別し、幼兒をひとりかかへて、生みの親たちと一しよに住むことになつた分去れの村は、その頃、みるかげもない寒村になつてゐた。
「ふるさとびと」堀辰雄(青空文庫)
末尾部(原文より)
捨吉は默つたまま、足もとの老犬のはうへ目を落してゐた。 松平もそれきり默つて、もうすつかり秋めいて近かぢかと見える火の山の火口のあたりに小さな雲がたえず移つてゐるのを見やつてゐた。小さな雲がひとつづつ立ち去ると、そのあとに火の山の煙らしいものが一すぢ、かすかに立ちのぼつてゐた。……
「ふるさとびと」堀辰雄(青空文庫)
原文を読む
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