花火(太宰治)のあらすじ・登場人物
放埒な息子と耐える家族
- 心理
- 家族
- 文字数
- 14,233字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
ある家庭の崩壊と、そこに起きた事件を描いた短編。1942年(昭和17年)10月、雑誌「文芸」に発表されたが、掲載号は当局の指示で全文削除の処分を受けた。戦後、「日の出前」と改題して発表されている。洋画家の家に生れた放埒な息子と、その暴虐に耐える家族の物語。
あらすじ
洋画家・鶴見仙之助の一人息子・勝治は、父に似ず鈍重で怒りっぽく、チベット行きを言い出しては家を騒がせる恐るべき家庭破壊者であった。妹・節子の着物は次々と箪笥から消え、父の画までが盗み出される。勝治の周りには、大学の主で節子を狙う風間七郎、理屈で勝治を縛る杉浦透馬、勝治を「先生」と呼ばせる自称新進作家の有原修作といった面々が集まり、彼らの手のひらの上で勝治はいよいよ荒れていく。夏の夜、井の頭公園の宝亭に集まった一同は、月の下でボートを出した。翌日から取調べがはじまり、一家はみな警察に留置される。誰よりも先に釈放された節子に、検事はしんみりと声をかけた。
登場人物
- 鶴見勝治 洋画家の家に生れた放埒な息子。家庭を破壊していく小暴君
- 鶴見節子 勝治の妹。兄に着物を奪われ、暴力を受けつづける
- 鶴見仙之助 勝治の父。無口で上品な洋画家
- 風間七郎 T大学予科の主。節子を狙って家に出入りする
- 有原修作 勝治が「先生」と呼ぶ自称新進作家
冒頭部(原文より)
昭和のはじめ、東京の一家庭に起った異常な事件である。四谷区某町某番地に、鶴見仙之助というやや高名の洋画家がいた。その頃すでに五十歳を越えていた。東京の医者の子であったが、若い頃フランスに渡り、ルノアルという巨匠に師事して洋画を学び、帰朝して日本の画壇に於いて、かなりの地位を得る事が出来た。
「花火」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
節子は、誰よりも先きに、まず釈放せられた。検事は、おわかれに際して、しんみりした口調で言った。 「それではお大事に。悪い兄さんでも、あんな死にかたをしたとなると、やっぱり肉親の情だ、君も悲しいだろうが、元気を出して。」 少女は眼を挙げて答えた。その言葉は、エホバをさえ沈思させたにちがいない。もちろん世界の文学にも、未だかつて出現したことがなかった程の新しい言葉であった。 「いいえ、」少女は眼を挙げて答えた。「兄さんが死んだので、私たちは幸福になりました。」
「花火」太宰治(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。