雪の夜の話(太宰治)のあらすじ・登場人物
眼の底に写した雪景色
- 家族
- 心理
- 文字数
- 4,452字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
雪の夜の妹の心持ちを描いた掌編。1944年(昭和19年)5月、雑誌「少女の友」に発表された。兄夫婦と暮らす娘が、身重の嫂のために持ち帰るはずだったスルメを雪道で落としてしまう。その代わりに彼女は、兄から聞いた「人間の眼玉は風景をたくわえる事が出来る」というデンマークの物語を思い出し、美しい雪景色を眼の底に写して帰るのだが——。戦時下に書かれたとは思えない、あたたかくユーモラスな一篇。
あらすじ
雪の降る日、学校の帰りに中野の叔母のうちへ寄った「私」は、土産にもらったスルメ二枚を、雪にはしゃいで歩くうちに落としてしまう。身重のお嫂さんにこっそり食べさせるつもりの品だった。しょんぼりした私は、いつか兄から聞いたデンマークの物語を思い出す。難破した若い水夫の眼球を解剖して調べたところ、その網膜に美しい一家団欒の光景が写っていたという話である。ならば自分も、と私はできるだけ美しい雪景色を眺めながら帰り、「お嫂さん、あたしの眼を見てよ」と言う。眼の底の雪景色を見てもらえば、雪のように肌の綺麗な赤ちゃんが生れるはずだから。ところが、隣の六畳間から兄が出て来て、とんでもない事を言い出した。
登場人物
- 私(しゅん子) 兄夫婦と三人で暮らす娘。この話の語り手
- 兄 四十ちかい小説家。口ばかり達者で家の手助けをしない変人
- お嫂さん(きみ子) 身重の兄嫁。身だしなみのよいおとなしい人
冒頭部(原文より)
あの日、朝から、雪が降っていたわね。もうせんから、とりかかっていたおツルちゃん(姪)のモンペが出来あがったので、あの日、学校の帰り、それをとどけに中野の叔母さんのうちに寄ったの。そうして、スルメを二枚お土産にもらって、吉祥寺駅に着いた時には、もう暗くなっていて、雪は一尺以上も積り、なおその上やまずひそひそと降っていました。
「雪の夜の話」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
私はくやしくて泣いてやろうかしらと思いました。その時、お嫂さんが私を助けて下さった。お嫂さんは微笑んで静かにおっしゃいました。 「でも、とうさんのお眼は、綺麗な景色を百倍も千倍も見て来たかわりに、きたないものも百倍も千倍も見て来られたお眼ですものね。」 「そうよ、そうよ。プラスよりも、マイナスがずっと多いのよ。だからそんなに黄色く濁っているんだ。わあい、だ。」 「生意気を言ってやがる。」 兄さんは、ぶっとふくれて隣りの六畳間に引込みました。
「雪の夜の話」太宰治(青空文庫)
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