花火(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
花火に酔う人妻の恋
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 8,551字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1947年(昭和22年)5月、「サンデー毎日」臨時増刊号に発表された坂口安吾の短編。待合の娘から請負師の妻になった女が、貧相で酒飲みの脚本書き、ミン平に惹かれてゆく。女の一人称で、肉体の快感を知らない自分への自覚と、美しい男への思いが語られる。題名の花火は、男の美しさと妖しさを指す比喩として作中に現れる。
あらすじ
待合の娘の「私」は、役者のキタ助やサブ郎に入れ揚げて遊んでいたが、その幇間じみた姿が嫌になり、金持ちの請負師、木村と周囲の反対を押し切って結婚した。婚礼の席でひやかしの声を上げたのが、脚本書きのミン平だった。酒癖が悪く、小男で貧相だが、顔立ちは美しく気品がある。「私」は肉体の悦びを感じたことがなく、木村を疎ましく思い、ミン平と腕を組んで歩くだけで胸がいっぱいになる。木村は彼女の話を面白がり、結婚の失敗を認めている。ある晩、酔ったミン平のアパートへ行った「私」の前で、ミン平は鍵をかけ、カミソリで帯を切って「からだをかせ」と迫る。「私」は怖れるよりも、妖しさに酔う。ところが彼は寝床で何もできず、あやまって、死ぬつもりだったと明かす。「私」は殺してと叫んでカミソリを彼の首に当て、血が噴き出す。水を欲しがる彼の口に、自分の首を切って血を注ぐ。
登場人物
- 私(ノブ子) 待合の娘。請負師の木村の妻
- 木村 金持ちで太っ腹な請負師。年の離れた夫
- ミン平 小男で酒飲みの脚本書き。貧相だが美しい顔立ち
冒頭部(原文より)
私はミン平が皮のジャムパーを着てやつてきた時には、をかしくて困つた。似合はなすぎるのだ。ミン平も、いかにも全身これ窮屈です、といふ様子で、てれきつてゐるから、尚へんだ。 「てれるから変なのだよ。気取つてごらん。ねえ、胸をそらして威張るのよ」 「やだなあ。小学校の時から胸をそらした覚えがないんだよ、オレは」
「花火」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は見廻して水をさがした。彼の最後ののどの乾きを医さずにゐられやうか。私は然し一つの閃く考へのためにピリピリした。私は彼を見つめた。苦しげであつたが、どこか安らかな翳があつた。私の胸はみちたりてゐた。私は私のクビを切つた。私はうつぶした。私のクビのきり口が彼の口に当るやうに。私の血の噴水が彼ののどの乾きをみたす楽しさに、私はうれしかつたのだ。私の胸は燃えてゐた。そして冷めたく、冷静だつた。そして、すべてが、分らなくなつた。
「花火」坂口安吾(青空文庫)
原文を読む
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