犯人(太宰治)のあらすじ・登場人物
新聞に出ない殺人の逃亡
- ミステリ
- 心理
- 文字数
- 8,001字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
殺人を犯した青年の逃亡を追う短編。1948年(昭和23年)1月、雑誌「中央公論」に発表された。プーシキン「吹雪」の一節を掲げ、平凡な恋のささやきから話ははじまる。逢う場所が欲しいというだけの理由で、若い会社員は姉に刃を向けてしまう。太宰晩年の犯罪小説。
あらすじ
同じ会社に勤める二十六歳の鶴田慶助と二十一歳の小森ひでは、好き合っていた。だが二人には金が無く、ふたり切りになれる場所も無い。三鷹の姉の家で部屋を借りようとして断られた鶴は、逆上して姉に刃を向け、売上げの入った手文庫から数千円を掴んで逃げる。血に汚れた顔を拭き、電車に乗り、日本橋の待合でスズメという芸者と過ごす。夕刊を三種類買っては調べるが、事件はどの新聞にも出ていない。出ていないことが、かえって鶴を追い詰めた。世間じゅうが自分ひとりを追い廻していると信じ、彼は大阪行きの汽車に乗り、生れてはじめて詩を作ってみようとする。
登場人物
- 鶴田慶助 二十六歳の会社員。逢う場所を求めた末に姉へ刃を向ける
- 小森ひで 鶴の恋人。同じ会社に勤める二十一歳
- 姉 三鷹で店を営む鶴の姉。弟に部屋を貸すことを拒む
- スズメ 日本橋の待合の芸者。逃亡中の鶴に付き合う
冒頭部(原文より)
「僕はあなたを愛しています」とブールミンは言った「心から、あなたを、愛しています」 マリヤ・ガヴリーロヴナは、さっと顔をあからめて、いよいよ深くうなだれた。 ――プウシキン(吹雪) なんという平凡。わかい男女の恋の会話は、いや、案外おとなどうしの恋の会話も、はたで聞いては、その陳腐、きざったらしさに全身鳥肌の立つ思いがする。 けれども、これは、笑ってばかりもすまされぬ。おそろしい事件が起った。
「犯人」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
鶴の殺人は、とうとう、どの新聞にも出なかったけれども、鶴の自殺は、関西の新聞の片隅に小さく出た。 京都の某商会に勤めている北川という青年はおどろき、大津に急行する。宿の者とも相談し、とにかく、鶴の東京の寮に打電する。寮から、人が、三鷹の義兄の許に馳せつける。 姉の左腕の傷はまだ糸が抜けず、左腕を白布で首に吊っている。義兄は、相変らず酔っていて、 「おもて沙汰にしたくねえので、きょうまであちこち心当りを捜していたのが、わるかった。」 姉はただもう涙を流し、若い者の阿呆らしい色恋も、ばかにならぬと思い知る。
「犯人」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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