畸形の天女(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
二重生活が招く殺人
- ミステリ
- 心理
- 文字数
- 16,897字
- 読了目安
- 約34分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
「宝石」1953年10月号に発表された短編。四十五歳の貿易商社社長が、総入れ歯の形を変えた義歯と化粧で別人に変装し、場末で抑制から解放された夜を過ごすようになる。ある少女との出会いが、彼の「夢の国」に思いがけない事件を呼び込む。乱歩が随筆で語った「隠れ蓑願望」を、作中で具体的な二重生活として描く。収録本文は、主人公が自宅へ帰る場面で終わる。
あらすじ
四十五歳の宮城貿易商社社長、宮城圭助は、形を変えた総入れ歯と化粧で別人の松永昌吉に変装し、月に数度、場末で無頼の遊びにふける二重生活を送っている。ある秋の夕暮れ、千住で出会った女学生の北野ふみ子は、早熟で畸形的な魅力を持つ少女で、松永は彼女を畸形の天女と呼び、空き家で逢瀬を重ねる。そこへ、ふみ子に惚れる額に傷痕のある青年、斎田五郎が現れ、手を引くよう頼む。四度目の逢瀬の夜、斎田が空き家に忍び込んで松永にナイフで襲いかかり、ふみ子が皮ベルトで青年の首を絞めて救う。二人は死体を畳の下に埋め、松永は姿を消すことをふみ子に告げて別れる。圭助は宮城社長の姿に戻って帰宅する。
登場人物
- 宮城圭助 貿易商社の社長。変装して松永昌吉となる
- 北野ふみ子 圭助が畸形の天女と呼ぶ女学生
- 斎田五郎 ふみ子に執着する青年
冒頭部(原文より)
1 宮城貿易商社々長、宮城圭助は、客の商談を熱心に聴いている顔をしながら、映画の二重写しのような感じで、まったく別のことを考えていた。 何ヵ月もつづいて同じ場所を夢見ることがある。きょうもまた、あすこへ行くんだなと思うと、きっと、その同じ陰欝な、しかしふしぎな魅力のある場所へ来ている。何か怖いものが待ちかまえているような気がするけれども、それが出てくるわけではない。そして、どんな現実の場所よりも懐かしい。まるで母の胎内のように懐かしい。
「畸形の天女」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
そして、ふたりは別かれた。表へ出るとふみ子は、暗い街を、あとをも見ずに駈け出して行った。無邪気な小学生のように駈け出して行った。松永は、その場に立ちつくして、そのうしろ姿が見えなくなるまで、じっと見送っていた。 それから、彼は正確に、夕方とは逆のコースをたどって、伊達者の宮城圭助に立ち返ると、上野駅から大型のタクシーを拾って、渋谷の自宅に急いだ。自宅の玄関についたときにはもう十二時をすぎていた。
「畸形の天女」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
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