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裏切り(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

料亭に渦巻く打算と友情

  • 心理
  • ミステリ

坂口安吾 1954年(昭和29年)9月 「新潮」

文字数
35,343字
読了目安
約1時間11分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都
  • 静岡県

この作品について

1954年に『新潮』に載った、坂口安吾の晩年の中編。語り手は小さな料亭「阿久津」で働く板前見習いの「ぼく」。店には、斜陽族を装ってただ飯を食う元子爵の息子・日野、老店主「トオサン」、美しい座敷女中の小夜子が集い、そこへ二世のセラダや抜け目のないブローカーの法本が加わる。心中未遂や強盗事件へ話が転がるなか、ぼくの視点から人間の打算と奇妙な友情が皮肉な口調で描かれる。

あらすじ

料亭阿久津の板前見習いのぼくは、元子爵の息子で貧乏華族の日野が店に出入りし、ただ飯を食うのを冷ややかに見ている。女学生詩人の八千代は老店主トオサンに恋し、トオサンは美しい座敷女中・小夜子に胸を焦がし、ぼくも小夜子を思っている。そこへ二世のセラダが現れ、小夜子に一目で心を奪われて熱海で心中未遂事件を起こす。トオサンは小夜子に愛を告白し、横浜を連れ回すが、小夜子は返答に窮する。日野が仕える金持ちブローカー・法本は、セラダが何か重罪を犯したらしいと見て、彼を利用して稼ぎ、いずれ自殺に見せかけて殺す計画を立てる。日野はいつしかセラダの陽気なヤケに心酔し、友情を結ぶ。法本の指図でセラダは現金輸送車を襲って大金を得るが、その金をめぐって法本一味に連れ出され、熱海の山道で殺されて自殺に偽装される。セラダの最期を知っても、日野は友情を裏切らなかったことを後悔するだけだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ぼくが阿久津に働いていたので、日野が出入りするようになりました。彼が元子爵の息子だというのは本当です。  しかし奴めを斜陽族と云うのはとんでもないことで、彼が戦前ぼくと中学同級のとき、すでに裏長屋同然のところから通学しておりました。彼の父の子爵もそこに住んでいたのです。戦前から落ちぶれはてた世に稀な貧乏華族だったのです。

「裏切り」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 お金が山とあっても死にたい時に人は死にます。ことにセラダは何かによって死の崖へ追いつめられていた様子ですから、あの人柄ではいつ何時プイと死んでも別に変哲もないことに思われただけのことでした。  あのバカも死んだかと思いました。ギャングの金のつきるまでお酒をのませてもらえるタノシミが減ったのは遺恨でした。オレに残りの金をくれて死ねばよいのに、気のきかねえ野郎だとぼやいたのです。しかし小夜子サンに残してやった様子もないのでちょッと変だなと思いましたが、あのバカにはマゴコロからの惚れたハレたが皆目ないのは確かですから、むしろこれもサバサバして風流にかなうオモムキもあり、またこれでオレも小夜子サンにヤキモチやいて金銭の恨みを結び、時に悪夢にうなされる心配もなくて安心だと考えたりしたのです。  しかし思えば思うほど残念でたまらないのは、オレにもいくらかくれねえかなアとノドから手と声が一しょに出かかったのが何度もあったにも拘らず、奴めの妙に純粋らしい超特級の友情の手前、それがどうしても云えなかった一事でした。彼は生れてはじめて友情を裏切らなかったのかも知れませんが、これには後々まで後悔に後悔を重ねたのです。

「裏切り」坂口安吾(青空文庫)

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