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五瓣の椿(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

一輪の椿を残す復讐の連続殺人

  • ミステリ
  • 心理

山本周五郎 1959年(昭和34年)1月 「講談倶楽部」

文字数
149,684字
読了目安
約4時間59分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

山本周五郎が1959年(昭和34年)、月刊誌「講談倶楽部」に1月から9月まで連載した長編時代小説。放埒な母のために、誠実で心やさしい父を苦しみのうちに亡くした娘おしのが、母とその情夫たちへの復讐に身を投じる。犯行の現場ごとに、父が愛した山椿の花——五瓣の椿を一輪残してゆく連続殺人の様式美と、それを追う町方与力・青木千之助の探索を軸に、掟を失った人間への怒りと、私刑の空しさを静かに描く。たびたび映画・テレビドラマ化された、周五郎の代表的長編の一つである。

あらすじ

日本橋の薬種問屋「むさし屋」の一人娘おしのは、しょうばい一途に生きる養子の父・喜兵衛を深く敬愛していた。だが母おそのは美貌にまかせて男遊びを繰り返す不貞の女で、労咳に倒れた喜兵衛の看病を娘に押しつけ、亀戸の寮で情夫たちと遊興にふけっていた。父の臨終の際、おしのは自分が父の実子ではなく、母と丸梅の主人・源次郎との不義の子であることを知る。しかも母はそれを恥じるどころか平然としていた。人としての掟を踏みにじり嘲笑う母を赦せなくなったおしのは、寮に火を放って母を葬り、自らも焼死したと見せかけて姿を消す。父が遺した八百両を元手に家を借り、母とかかわった男たちの消息を調べあげたおしのは、そのなかから罪の重い五人を選び、女の色香で誘い寄せては一人ずつ手にかけ、そのたびに父の愛した五瓣の椿を残していった。連続する怪事件を追う町方与力・青木千之助は、やがて下手人がおしのであることに迫る。だが実の父・源次郎だけは、おしのは殺さなかった。真実を突きつけて生涯消えぬ重荷を負わせるほうが、死よりも重い罰だと悟ったからである。人を殺すことは罰でも償いでもない——そう気づいたおしのは、母を含む六人を殺めた罪を千之助への告白状に記して自訴を願い出る。しかし処刑の恐ろしさと未練に負けまいと、料理茶屋の離れで自ら胸を刺して果てる。汚れなき娘のままであったことを検屍で証してほしい、との願いを遺して。駆けつけた千之助は、安らかに微笑むようなその死顔に、源次郎の罪だけは必ず思い知らせると誓うのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

仏庵が死んでから四日めに当る、同じ正月の六日の夜半、その「むさし屋」の寮が自火で焼け、焼け跡から三人の死躰が出た。兼業の油屋の品が置いてあったものか、建物の中は油が火を引いたもようで、柱まできれいに焼け落ち、三人の死躰も殆んど男女の区別がつかなかった。

「五瓣の椿」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「おしの、私にはなにも云えないよ」と彼はおしのの死顔に向かって囁いた、「おまえのしたことが正当であったかなかったか、私にはわからない、だがおまえはそうしたかった、そうせずにはいられなかった、ということだけは真実だ、――しんじつそうせずにいられなかったとすれば、それをしたことについて悔やむ必要はないよ」 彼は眼をつむって、また続けた、「丸梅の源次郎は私が引受けた、彼には充分に、彼の罪の味を思い知らせてやるよ、――おまえはもう父親の側へいっているだろう、心をいためたり、人の眼を恐れたりすることもない、父親の側でゆっくり休むがいい、もう誰もおまえの邪魔をする者はないからな」

「五瓣の椿」山本周五郎(青空文庫)

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