春(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
妹の恋人に会いにゆく姉
- 恋愛
- 家族
- 文字数
- 9,520字
- 読了目安
- 約19分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
芥川龍之介の中編。結婚して二年ぶりに京都から東京へ戻る広子が、妹の辰子から打ち明けられた恋愛の相手を確かめようとする。画家を志す青年・篤介は、娘時代の二人が「猿」とあだ名していた人物だった。姉妹それぞれの気持ちの動きを、広子の側から細かく追う心理小説で、「未完」と付されたまま終わる。図書カードの初出は「中央公論」1923(大正12)年9月と「女性」1925(大正14)年4月。
あらすじ
花曇りの朝、広子は京都から東京行きの急行に乗る。結婚後二年ぶりに母を見舞い、母方の祖父の金婚式に出るためだが、妹の辰子の恋愛問題にも決着をつけたいと思っている。相手の篤介は、娘時代に二人が「野蛮人」「猿」と呼んで好まなかった洋画研究所の生徒だった。東京へ着いて数日後の夜、広子は妹の居間で、辰子の話を聞く。辰子は篤介を愛していると言いながら、二人の関係は友だち以上ではないと軽やかに語り、母に話してほしいと姉に頼む。広子はその態度に疑いと苛立ちを抱くが、結局、篤介に会うことを引き受ける。二日後、広子は上野の表慶館で、制服にクレヴァネットを羽織った篤介に初めて声をかける。ぎこちなく答える篤介と並んで陳列室を歩きながら、広子は彼の家族や交友をさりげなく尋ねていく。
冒頭部(原文より)
一 ある花曇りの朝だった。広子は京都の停車場から東京行の急行列車に乗った。それは結婚後二年ぶりに母親の機嫌を伺うためもあれば、母かたの祖父の金婚式へ顔をつらねるためもあった。しかしまだそのほかにもまんざら用のない体ではなかった。彼女はちょうどこの機会に、妹の辰子の恋愛問題にも解決をつけたいと思っていた。妹の希望をかなえるにしろ、あるいはまたかなえないにしろ、とにかくある解決だけはつけなければならぬと思っていた。
「春」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「あれにも母親が一人ございますし、あなたもまた、――あなたは御両親ともおありなんでございますか?」 「いいえ、親父だけです。」 「お父様だけ。御兄弟は確かございませんでしたね?」 「ええ、僕だけです。」 彼等は第二室を通り越した。第二室の外は円天井の下に左右へ露台を開いた部屋だった。部屋も勿論円形をしていた。そのまた円形は廊下ほどの幅をぐるりと周囲へ余したまま、白い大理石の欄干越しにずっと下の玄関を覗かれるように出来上っていた。彼等は自然と大理石の欄干の外をまわりながら、篤介の家族や親戚や交友のことを話し合った。彼女は微笑を含んだまま、かなり尋ね悪い局所にも巧に話を進めて行った。しかしその割に彼女や辰子の家庭の事情などには沈黙していた。それは必ずしも最初から相手を坊ちゃんと見縊った上の打算ではないのに違いなかった。けれどもまた坊ちゃんと見縊らなければ、彼女ももっとこちらの内輪を窺わせていたことは確かだった。 「じゃ余りお友だちはおありにならないんでございますね?」(未完)
「春」芥川龍之介(青空文庫)
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