鋏と布と型(久坂葉子)のあらすじ・登場人物
人形に問われる人間のあわれ
- 幻想
- 心理
- 文字数
- 7,720字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
1952年(昭和27年)十二月作。久坂葉子が世を去る一週間ほど前に書きあげた一幕物で、登場するのは有名デザイナーとマネキン人形のふたりだけ。人形が人間を「あわれ」と決めつけ、名誉も芸術も才能もポーズにすぎないと剥いでゆく問答が全篇を占める。作者は遺稿「幾度目かの最期」のなかで、この芝居こそ最後の仕事にするつもりだったと書き残している。
あらすじ
デザイナー谷川諏訪子のアトリエ。奥にはマネキン人形が布をまとって立っている。仕上げたスーツのボタンがかからないと客に苦情を言われた諏訪子は、太ったのはあちらのせいだ、十年間ただの一度も失敗したことはない、と憤慨している。そこへマネキンが口をきく——それは誤算でしょう、人が太ることを計算に入れていなかったのだから、と。
言い争いはやがて人間そのものへ及ぶ。太る、痩せる、年をとる、しわが寄り腰が曲がる、愛して苦しみ泣く、そしてどんな絶頂のあとにも必ず死が来る。だから人間はあわれなのだ、と人形は言う。動揺した諏訪子は思わず夫に電話をかけ、切られて戻ってくる。追憶にひたろうとすれば「若かった」と揶揄され、自然を真似た芸術が自然より美しいはずがないと突かれ、名誉とは銅像をたててもらいたいというポーズだと嗤われる。
大きな姿見の前に並んで立たされ、諏訪子は自分を見つめる。心がないから顔も瞳も変わらないという人形に対し、自分はどんな場合にもポーズをつくり続けてきた——「おねがい、おねがいだから私を人形にしてほしい」。それは不可能でございます、と人形は答え、仕事をおはじめなさいと促す。
登場人物
- 谷川諏訪子 名声を得たデザイナー。弟子を十数人抱える
- マネキン人形 アトリエの奥に立ち、諏訪子に語りかける
冒頭部(原文より)
マネキン人形 谷川諏訪子 机、テーブル、椅子、など散在、中央より、上手に、ボディー、着尺、散在、奥まったところに、マネキン人形、布をまとって、ポーズしている。(註、マネキンは、メーキャップ及び、動作を非人間的に。言葉はそのまま)中央に、大きな姿見一つ。 奇怪なる音楽。 幕
「鋏と布と型」久坂葉子(青空文庫)
末尾部(原文より)
諏訪子 もう何も云わないで、お願いだからだまってて、私は人形になれないんだから。 マネキン え、そうよ。だからさあさ。鋏と布と、そしてかたちをつくって下さいましな。美しいかたちをね。 奇怪な音楽。マネキン、再び踊り出す。 ――幕――
「鋏と布と型」久坂葉子(青空文庫)
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