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走れメロス(太宰治)のあらすじ・登場人物

友を信じて走る信実の物語

  • 冒険
  • 心理

太宰治 1940年(昭和15年)5月 「新潮」

文字数
9,841字
読了目安
約20分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1940年(昭和15年)5月、『新潮』に発表された短編小説。『富嶽百景』などと同じ太宰治の中期に属し、古代ギリシアの伝承とドイツの詩人シラーの詩をもとに書かれた。妹の婚礼の買い物に出た牧人メロスは、訪れたシラクスの町で王の暴政を知り、怒りに駆られて王城へ向かう。捕らえられた彼は、親友を人質に残して、妹の結婚式のために村へ戻る猶予を求める。人を疑う王と、友への信頼を語る青年を対置し、約束を引き受けることの重みを描く物語である。短い文を畳みかける力強い語りと、人物の心の動きを追う独白が、切迫した時間の感覚を生み出している。太宰は巻末に典拠を記しており、シラーの詩『人質』との比較から、古い題材に加えられた心理描写やユーモアを読み取ることもできる。中学校の国語教材としても長く読まれてきた。

あらすじ

牧人メロスは、人を信じられず民を処刑し続ける暴君ディオニス王に激怒し、王城に乗り込んで捕えられる。妹の結婚式を挙げるため三日間の猶予を願い出たメロスは、親友の石工セリヌンティウスを人質に差し出して村へ走る。式を終えて戻る道中、氾濫した川や山賊、そして疲労による絶望がメロスを襲い、一度はすべてを投げ出しかける。しかし湧き水で正気を取り戻したメロスは、信じられているがゆえに走り、日没の刑場に間一髪で到着する。二人は互いに一度心が揺らいだことを告白し合い、殴り合ったのちに抱擁する。その姿に心を打たれた王は改心し、自分も仲間に入れてほしいと願うのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

「走れメロス」太宰治(青空文庫)

末尾部(原文より)

「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」勇者は、ひどく赤面した。

「走れメロス」太宰治(青空文庫)

名文

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

物語の幕開けを告げる書き出し。理屈より先に走り出すメロスの一本気な人物像を、一息に描き出す。

勇者は、ひどく赤面した。

走り抜いた末に少女からマントを渡され、裸だと気づく最後の一行。英雄譚を人間の可笑しみで着地させる。

それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。

もう間に合わないと止めるフィロストラトスに、メロスが答える言葉。約束を果たすことを超えて、信頼そのもののために走る物語の核心が語られる。

信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。

約束どおり戻ったメロスと、彼を信じて待ったセリヌンティウスの姿を見た王の言葉。人を信じられなかった暴君が心を改める、物語の到達点。

私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。

一度は走るのをあきらめかけたメロスが、泉の水を飲んで再び立ち上がる場面。自らを叱咤するこの一語が、そのまま作品の題となっている。

口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。

捕らえられたメロスに暴君ディオニスが言い放つ言葉。人を信じられなくなった王の猜疑心が、この物語で試される「信実」と真正面から対立する。

「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」  セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、 「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

刑場で再会した二人が、互いの頬を殴らせる場面。一度でも相手を疑った自分を許さない潔さが、「信実」をめぐる物語のクライマックスを形づくる。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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