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保久呂天皇(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

天皇を名乗る石室の男

  • 心理
  • 風刺

坂口安吾 1954年(昭和29年)6月 「群像」

文字数
13,034字
読了目安
約26分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

山あいの十一戸だけの部落で、リンゴ園で財を成した男の現金九十一万円が盗まれる。犯人がわからないまま疑心暗鬼が部落を覆い、古墳のような石室を独りで築いていた男にも矛先が向く。1954年に『群像』に載った短編で、「天皇」「ミササギ」といった大仰な題材を、方言まじりの田舎の悶着として語る。全集では最晩年の小説群に数えられる。

あらすじ

リンゴ園で部落一番の金持ちとなった中平は、風呂に出かけた留守に、神棚に預けたシマの財布を盗まれる。湯治客の七つの子供が財布のことを口にしたのが発端だった。中平は二連発銃を提げて家宅捜索を繰り返し、疑いは、仲の悪い湯元の三吉と、メートル法に反対して敗れ、三人の子を戦死で失った久作に絞られる。久作は、自分の名を残そうと、五年がかりで古墳のような石室と山を築いていた。中平は財布はその石室に隠されていると言い立て、部落の者も山の取り壊しを認める。久作は石室に籠もるうち、子供を叱る親の「たたられるぞ」という一言に、自分が天皇のように畏れられていると悟り、穴から出なくなる。やがて警察に運び出されて石室は壊されるが、財布は出ず、久作が書いた『保久呂天皇系図』が見つかる。濡れ衣は晴れ、部落の者は土下座して詫びるが、久作は黙ったままリヤカーで戻り、中平のリンゴの木を残らず切り倒し、ミササギの跡を畑にしてカブをまいて、その晩、鎌で腹を裂いて死ぬ。

登場人物

冒頭部(原文より)

 その晩、リンゴ園の中平が保久呂湯へ降りたのは八時に二十分ぐらい前であった。「鉢の木」という謡曲をうなりながら通過するから部落の者にわかるのである。

「保久呂天皇」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その翌日から久作はミササギで仕事にかかったが、十日あまりで石を全部谷へ投げこみ、地ならしして、ミササギが畑になっていたのである。そこへ彼はカブをまいた。しかし、カブをまき終った晩、鎌で腹をさいて死んだのである。山へ戻ってからその日まで誰とも一言も話をしなかった。

「保久呂天皇」坂口安吾(青空文庫)

原文を読む

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