あだこ(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
死を待つ旗本と津軽の下女
- 心理
- 風刺
- 文字数
- 22,771字
- 読了目安
- 約46分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎が1958年(昭和33年)、「小説倶楽部」に発表した短編。許婚に去られて世をはかなみ、餓死を待つばかりに荒れ果てた旗本・小林半三郎の屋敷に、津軽から出てきた色黒の下女「あだこ」が住み込む。押しつけがましさのないひたむきな働きぶりを、津軽訛りのおかしみと哀感を交えて描く。周五郎の人情ものの妙味あふれる佳品である。
あらすじ
許婚のみすずに出奔され、生きる張りを失った旗本・小林半三郎は、屋敷を荒れるにまかせ、家来も出入りの商人も去って、ついには食を断って餓死を待つばかりになっていた。ある日、その荒れた庭の草をむしる見知らぬ女が現れる。津軽から出てきて行き場をなくした色黒の下女で、「あだこ」と名のる彼女は、掛け売りを断られていた米屋や魚屋を巧みに口説いて食べ物を工面し、半三郎の世話をやきながら屋敷に居着いてしまう。半三郎は、これは自分を案じる友人・曽我十兵衛の差し金で、代銀も十兵衛が払っているのだろうと疑い、あだこの誠意を素直に受け取れずにいた。だが実は、あだこは店々の掃除や賃仕事で自ら稼ぎ、借りを少しずつ返しながら半三郎を支えていたのである。それを米屋の主人から聞かされ、半三郎の凍てついた心はほどけてゆく。男に言い寄られぬよう顔に釜戸の煤を塗っていたあだこの、けなげな身の上——年下の継父との気まずさから家を出て、幾度も奉公先で嫌な目に遭ってきたこと——を知り、半三郎はふたたび勤めに出る決意を固める。煤を落としたあだこの顔は美しく、屋敷には友人たちの笑い声が戻る。「すべてはむなしいか」と自らに問うた半三郎は、生きようとするあだこの力に負けたのだと悟り、二人だけで話がある、とあだこを呼び寄せるのだった。
登場人物
- 小林半三郎 許婚に去られて自暴自棄になり、餓死を待つ旗本。あだこに救われる本作の主人公
- あだこ(本名いそ) 津軽から出てきた色黒の下女。ひたむきな働きで半三郎を生へ引き戻す。「あだこ」は国の言葉で下女の意
- 曽我十兵衛 半三郎の友人。国目付。半三郎を案じて立ち直らせようとする
- みすず 半三郎の許婚だった娘。好きな相手と出奔した
- 市兵衛 米屋の主人。あだこの真情を半三郎に伝える
冒頭部(原文より)
曽我十兵衛はいきなり小林半三郎を殴りつけた。 そのとき半三郎は酒を飲んでいて、十兵衛が玄関で案内を乞う声を聞いた。誰もいないのだから出てゆく者はない。十兵衛は高い声で三度呼び、それから玄関の脇の折戸をあけて、庭へはいって来たのだ。
「あだこ」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「かれらにも笑わしておこう」と彼は片手を伸ばしたままで云った。 「ここへ来てお坐り、二人だけで話すことがあるんだ、おいで」 あだこは赤くなり、そっと襖を閉めて、眼を伏せながらすり寄った。向うではまたひと際高く、笑い崩れる四人の苦しげな声が聞えた。
「あだこ」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。