一灯(太宰治)のあらすじ・登場人物
提灯行列の夜の兄
- 家族
- 心理
- 文字数
- 3,052字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1940年(昭和15年)11月、雑誌「文芸世紀」に発表された短編。戦時下の緊張した空気のなか、「貧者一燈」の心でと断って、八年前に皇太子誕生を祝う提灯行列の夜、卒業の見込みがなく長兄に叱られていた弟が、兄と銀座を歩いた思い出を語る。厳格な兄の意外な喜びようが、温かくユーモラスに描かれる。
あらすじ
八年前、昭和八年十二月二十三日の夕方、卒業の見込みがない「私」は、神田の宿で長兄に激しく叱責されていた。そこへ外から人のざわめきが聞こえ、皇太子殿下御誕生の提灯行列だと私が報告すると、兄は表情を変えた。兄は自動車を呼んで私を連れ出し、国旗にあふれた銀座で「よかった!」と呟いて、眼鏡をはずした。以前、照宮の誕生の折には「おれは泣かなかった」と強がった兄である。兄は銀座裏のおでんやで私に酒をすすめ、集まった市民とともにバンザイを叫んだ。私は、あのように純一な歓喜の声を再び聞く日を願い、それまでは辛抱せねばなるまいと述べる。
登場人物
- 私 卒業の見込みがない大学生。長兄に叱られる
- 長兄 癇癖の強い兄。父に早く死なれた弟にとって父代わり
冒頭部(原文より)
芸術家というものは、つくづく困った種族である。鳥籠一つを、必死にかかえて、うろうろしている。その鳥籠を取りあげられたら、彼は舌を噛んで死ぬだろう。なるべくなら、取りあげないで、ほしいのである。 誰だって、それは、考えている。何とかして、明るく生きたいと精一ぱいに努めている。昔から、芸術の一等品というものは、つねに世の人に希望を与え、怺えて生きて行く力を貸してくれるものに、きまっていた。私たちの、すべての努力は、その一等品を創る事にのみ向けられていた筈だ。至難の事業である。けれども、何とかして、そこに、到達したい。右往も左往も出来ない窮極の場所に坐って、私たちは、その事に努めていた筈である。それを続けて行くより他は無い。持物は、神から貰った鳥籠一つだけである。つねに、それだけである。
「一灯」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
あのように純一な、こだわらず、蒼穹にもとどく程の全国民の歓喜と感謝の声を聞く事は、これからは、なかなかむずかしいだろうと思われる。願わくは、いま一度。誰に言われずとも、しばらくは、辛抱せずばなるまい。
「一灯」太宰治(青空文庫)
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