いずこへ(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
鍋釜の住む部屋
- 心理
- 恋愛
- 文字数
- 18,744字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1946年(昭和21年)、「新小説」に載った坂口安吾の自伝的な短編。工場街のアパートで落伍者のように暮らす二十九歳の「私」の部屋に、夫と別れた女が通ってきて、鍋や釜まで住みこむようになる。女の従妹アキとの関係、十銭スタンドの女、田舎町への逃避などが語られ、愛情も文学の自信も見失った男の孤独が描かれる。戦後に発表されたが、描かれる時期は戦前である。
あらすじ
「私」は工場街のアパートで一人暮らしをしていたが、女が通ってきて、食器や鍋釜が部屋に増えていく。私は食べて生きているだけという意識を嫌い、食器を憎んでいた。女は夫と別れて私に寄りそい、平凡な暮らしを望むが、私は女の愛情をうるさく感じる。深夜、行きつけの十銭スタンドで不美人の女や、その亭主、新米の刑事とのいざこざがあり、私は女に命令されて腹を立てる。やがて私は女の従妹のアキと関係を持ち、アキは私の女にすべてを語って復讐する。女の夫が刃物を持ち出し、私と女は地方の小都市に移り住む。そこへ淋病を病んだアキが落ちのびてくる。私は図書館へ通いながら、自分の魂の行き先が分からない虚しさをかみしめ、「いずこへ」と問う。
登場人物
- 私 二十九歳の落伍者の作家
- 女 夫と別れて私の部屋に通う女
- アキ 女の従妹。男を求めて浮気を重ねる
冒頭部(原文より)
私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた。もっともそれは注意を集中しているという意味ではないので、あべこべに、考える気力というものがなくなったので、耳を澄ましていたのであった。 私は工場街のアパートに一人で住んでおり、そして、常に一人であったが、女が毎日通ってきた。
「いずこへ」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
目当のない、そして涯のない、無限につづく私の行路を見るような気がするから。 私は息をひそめ、耳を澄ましていた。女達のめざましい肉慾の陰で。低俗な魂の陰で。エゴイズムの陰で。私がいったい私自身がその外の何物なのであろうか。いずこへ? いずこへ? 私はすべてが分らなかった。
「いずこへ」坂口安吾(青空文庫)
名文
私はそのころ耳を澄ますようにして生きていた。
安吾『いずこへ』の書き出し。考える気力をなくし、ただ耳を澄ましていたという虚脱した日々の語りが始まる。
いずこへ? いずこへ? 私はすべてが分らなかった。
表題の言葉が現れる本文の結び。行き先の見えない自分の行路を見つめる、安吾の孤独な問いかけである。
原文を読む
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