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十八時の音楽浴(海野十三)のあらすじ・登場人物

音楽が支配する未来国家

  • SF

海野十三 1937年(昭和12年)4月 「モダン日本」

文字数
29,671字
読了目安
約59分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

海野十三が1937年(昭和12)に雑誌『モダン日本』へ発表した短編SF。戦争を重ね、地底に潜った未来の独裁国家が舞台で、国民の頭脳を統制する「音楽浴」の装置が重要な役割を果たす。日本SFの先駆者とされる作者の代表作の一つである。

あらすじ

度重なる戦争で地表が毒ガスと細菌に荒れはて、生き残った人類が地底に潜んで暮らす未来。独裁者ミルキ大統領が君臨するミルキ国では、科学者コハク博士の発明した「音楽浴」が国民を統べていた。毎日十八時、三十分だけ螺旋椅子を通じて脳へ送りこまれる振動音楽が、住民をことごとく従順で勤勉な「標準人間」に作り変えるのである。だが画一化を強いられた国民の内には毒素が澱み、密かに性を変える者さえ現れていた。折しも野心家の女大臣アサリが、コハクを慕うミルキ夫人ともども博士を陥れようと謀り、二人をテレビ放送で醜聞に仕立てて処刑にかける。しかしコハクは自分そっくりの人造人間を身代りに爆死させ、研究室の奥深くに姿を隠していた。実権を握ったアサリは音楽浴を一日二十四回に増やす暴政に走り、国民は疲弊し発狂し、次々と斃れてゆく。そこへ火星のロケット艦襲来の警報が鳴り響くが、衰弱しきった国民はもはや戦う力もなく、扉を破ろうとして全滅する。最後にミルキ閣下と女大臣までもが力尽きたとき、死んだはずのコハク博士が甲冑をまとい、五百体の人造人間を従えて現れる。彼はミルキ国の統制音楽を止め、人間性讃美の新しい音楽浴を奏でさせ、ただ一人生き残った人間として、人造人間だけの理想国家の建設に乗りだすのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

太陽の下では、地球が黄昏れていた。その黄昏れゆく地帯の直下にある彼の国では、ちょうど十八時のタイム・シグナルがおごそかに百万人の住民の心臓をゆすぶりはじめた。「ほう、十八時だ」「十八時の音楽浴だ」「さあ誰も皆、遅れないように早く座席についた!」アリシア区では博士コハクと男学員ペンとそして女学員バラの三人がいるきりだった。タイム・シグナルを耳にするより早く、三人は扉を開いて青い廊下にとびだした。その青廊下には銀色に光る太い金属パイプを螺旋形に曲げて作ってある座席が遠くまで並んでいた。

「十八時の音楽浴」海野十三(青空文庫)

末尾部(原文より)

人間性讃美の曲。それは冷たき亡骸になったミルキ国人のために奏せられるのであろうか。それとも博士によって創造された美しき人造人間に人間の魂を移し植えるために奏せられるのであろうか。いやそれは只一人の生残り人間なる専制コハクのために奏せられる挽歌であった。卓越せる頭脳の持主である博士にとっては、累々たるミルキ国の死者を更生させることは大して困難なことではなかった。しかし博士は全然そういう意志を持っていなかった。科学者とは畢竟そういう冷たい者であった。しかし博士コハクは、ここに彼が日頃理想としたユートピアを堅き信念と大なる自信をもって建設しようとこれつとめているのだった。新興コハクの人造人間国は新しき人間性讃美の音楽浴に包まれながら、今や新しき世界の建設にスタートを切った。

「十八時の音楽浴」海野十三(青空文庫)

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