偉大なる夢(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
戦時下の科学冒険小説
- SF
- 文字数
- 118,016字
- 読了目安
- 約3時間56分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1943年(昭和18年)から翌年にかけて「日の出」に連載した、戦時下の科学冒険小説。太平洋戦争のさなか、アメリカ本土を一挙に爆撃しうる超高速爆撃機「五十嵐機」の開発をめぐって、陸軍を舞台に繰り広げられる物語である。国策に沿った戦意高揚の色濃い作品で、探偵作家・乱歩が戦争協力のもとで書いた異色作。時代の空気を色濃く映した、資料的な意味合いの強い一編である。
あらすじ
太平洋戦争のただ中、日本陸軍省——「聖戦完遂の心臓部」に、ただならぬ気配が漂っていた。大臣官房の少年給仕・高橋喜一は、その巨大な「脈搏」の変調を敏感に感じ取る。極秘の会議で語られていたのは、老科学者・五十嵐博士が実現しようとしている「偉大なる夢」——太平洋を一瞬に飛び越え、遠くアメリカ本土をも爆撃しうる、超高速爆撃機「五十嵐機」の開発計画だった。その夢の実現を阻もうとする敵の謀略と、それに立ち向かう人々の攻防が、科学冒険小説の趣向で描かれる。物語の終盤、望月少佐は、五ヶ所の航空機工場が五十嵐機の製作に着手し、数ヶ月後には何百何千という超高速爆撃機が完成すると熱く語り、その幻影に酔いしれる。国策に沿った戦意高揚の物語として書かれた、戦時下ならではの一編であり、探偵作家・乱歩が時局のなかで手がけた、時代を映す資料的作品である。
登場人物
- 高橋喜一 陸軍省の少年給仕
- 五十嵐博士 超高速爆撃機を開発する老科学者
- 望月少佐 計画に関わる軍人
冒頭部(原文より)
この巨大なる心臓は、些々たる戦況に一喜一憂することなく、如何なる場合にも冷静にがっしりと規則正しく脈搏っていたが、しかし極めて稀には、大いなる憂い、大いなる喜びのために、その鼓動を早めることがないとは云えなかった。陸軍大臣官房の少年給仕高橋喜一は、少年の敏感さをもって、時としてこの巨大なる脈搏の変調を直感することがあった。
「偉大なる夢」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
望月少佐の声は一語一語と高く激しくなって行った。そして、この狭い地下室の底は、今や雄大無比の幻影に満たされていた。 少佐の歓喜の絶叫は地下室を震わせて鳴り響き、そのただ一人の聴手京子の頬には、拭いもあえぬ美しい涙が、あとからあとからと、とめどもなく流れ落ちるのであった。
「偉大なる夢」江戸川乱歩(青空文庫)
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