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母子像(久生十蘭)のあらすじ・登場人物

美しすぎる母と、サイパンの記憶

  • 家族
  • 心理

久生十蘭 1954年(昭和29年)3月 「読売新聞」

文字数
7,763字
読了目安
約16分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 神奈川県

この作品について

久生十蘭が1954年(昭和29年)3月に「読売新聞」に発表した短編。英訳がニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙の国際短編小説コンクールで第一席に選ばれたことで知られる。舞台は占領期の終わりに近い神奈川の基地の町。サイパン生まれの少年・和泉太郎が掩体壕で火をいじって補導され、担任の教諭が警察に呼ばれるところから始まる。品行方正な給費生だったはずの少年が、なぜ女装や泥酔のような奇行を重ねるのか。前半は大人たちの事情聴取の会話、後半は保護室の少年の追想と内心の声で組み立てられ、サイパン玉砕の記憶と美しい母への思慕が、短い紙幅に凝縮した文章で描かれる。

あらすじ

昭和二十七年の秋、厚木キャンプに近い聖ジョセフ学院中学部の担任教諭が、警察に呼び出される。受け持ちの和泉太郎(十六)が、進駐軍の器材の入った掩体壕で火をいじって補導されたのに、石のように黙りこんでいるのだという。サイパン生まれの太郎は、気象技師の父を幼くして亡くし、将校慰安所を切りまわしていた美しい母とも戦争で生き別れて、ハワイを経て学院に来た、操行点百の模範生だった。ところが婦人警官は、女の子の格好で銀座で花売りをしていた、基地の前で客を東京へ送りこんでいた、線路を泥酔して歩いていた、と不行跡を並べる。教諭は、太郎がサイパン陥落の直前に、母の手で麻紐で首を締められて殺されかけ、人工呼吸で蘇生した子どもであることを明かす。保護室の太郎は、洞窟で母のために命がけで水を汲んだ日々と、「旅人よ、行きてラケダイモンに告げよ」と母に暗誦させられた最後の日を思い出していた。東京で銀座のバアを営む母を探し当てた太郎は、母の顔を見たさに花売りに化けて店に通い、店をにぎわせようと客を送りこんでいたのだった。だがその客と母との関係を知り、母の部屋で一夜を聞いてしまった太郎は、汚れた自分を消そうと線路に身を横たえ、石油をかぶって火をつけようとしたが、どちらも果たせなかった。死刑にしてくれと叫んだ太郎は、目の前に投げ出された警官の拳銃を手に取り、壁に向けて撃ちはじめる。撃ち返された弾に胸を打たれ、太郎は涙をあふれさせて倒れた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 進駐軍、厚木キャンプの近くにある、聖ジョセフ学院中学部の初年級の担任教諭が、受持の生徒のことで、地区の警察署から呼出しを受けた。  年配の司法主任が、知的な顔をした婦人警官を連れて調室に入ってきた。

「母子像」久生十蘭(青空文庫)

末尾部(原文より)

「この野郎、なにをしやがる」  警官が起きあがって、そこから射ちかえした。鉄棒のようなものが太郎の胸の上を撲りつけた。太郎は壁に凭れて長い溜息をついた。だしぬけに眼から涙が溢れだした。そうして前に倒れた。

「母子像」久生十蘭(青空文庫)

原文を読む

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