ちいさこべ(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
焼け跡で暖簾を守る若い棟梁
- 心理
- 家族
- 文字数
- 33,493字
- 読了目安
- 約1時間7分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎が1957年(昭和32年)、「講談倶楽部」に発表した中編。大火で親方夫婦と店を失った江戸の若い大工の棟梁・茂次が、焼け跡に踏みとどまり、職人と暖簾を守って店を建て直そうとする姿を描く。そこへ、身寄りのない孤児たちを引き取って世話をする娘・おりつが転がりこみ、茂次の再建の日々に割りこんでくる。仕事一途で子供らを持て余す茂次と、まっすぐなおりつ、そして子供たちとの暮らしを通じて、意地と情愛のかたちを静かに描いた人情の一編。のちに漫画・映画にもなった。
あらすじ
江戸神田の大工「大留」の若い棟梁・茂次は、川越へ出仕事にいっている留守に大火が起こり、店は焼け、恩ある親方夫婦も焼け死んでしまう。茂次は焼け跡に小屋を建てて踏みとどまり、散りかけた職人たちをつなぎとめ、なんとしても大留の暖簾を再興しようと決意する。そんな折、火事で親を失った子供たちを引き取って育てている娘・おりつが、行き場を失って茂次の焼け跡へ子供らを連れて住みこんでくる。再建で頭がいっぱいの茂次は、足手まといの子供たちを疎ましく思い、幾度も追い出そうとするが、おりつは子供らを離そうとしない。おりつのひたむきさと、なついてくる子供たちとの日々のなかで、頑なだった茂次の心はほぐれてゆく。商家の娘おゆうとの縁談や、朋輩の職人たちとの行き違いをはさみながら、茂次は仕事のうえでも人としても一人前になってゆく。やがて茂次は、おりつへの想いを不器用に持てあましながらも認め、おりつは仮の仏壇に手を合わせて、静かにその願いを祈るのだった。
登場人物
- 茂次 江戸神田の大工「大留」の若い棟梁。大火で親方と店を失い、暖簾の再興に一途になる本作の主人公
- おりつ 身寄りのない孤児たちを引き取って育てる娘。茂次の焼け跡に住みこみ、子供らを離そうとしない
- 子供たち 火事で親を失い、おりつになついてくる幼い者たち
- 大六 茂次の朋輩の職人
- おゆう 茂次に縁談の持ちあがる商家の娘
冒頭部(原文より)
茂次は川越へ出仕事にいっていたので、その火事のことを知ったのは翌日の夕方であった。当日の晩にもちょっと耳にした。川越侯(松平直温)が在城なので、江戸邸から急報があったのだろう、かなり大きく焼けているというはなしだった。江戸で育った人間は火事には馴れているし、まだ九月になったばかりなので、かくべつ気にもとめなかった。
「ちいさこべ」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
おりつは黙って、うなだれたまま坐っていた。そして、かなり経ってから、低いやわらかな声で囁いた。 「あたしねえ、仮名ならもうすっかり読めるし、書くこともできるのよ」 茂次はなにも云わなかった。おりつはなお暫く坐っていたが、やがてそっと立ちあがると、仮の仏壇の前へゆき、合掌し頭を垂れた。茂次がうす眼をあけて見ていると、おりつは仏壇に向っておじぎをし、口の中でなにか囁きかけていた。茂次にはお願いしますという言葉だけが聞えた。そうして、おりつは忍び足で出ていった。
「ちいさこべ」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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