影のない犯人(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
誰もが誰かを疑う温泉町
- ミステリ
- 風刺
- 文字数
- 11,035字
- 読了目安
- 約22分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1953年『別冊小説新潮』に載った、探偵小説風の諷刺劇。温泉都市の大別荘の主・前山一作が病に倒れ、隣の医師、居候の剣術使い、彫刻家の三人の「先生」と、遺産を狙う息子と娘が、互いを疑いはじめる。謎解きよりも、疑い合う人間たちの可笑しさが主役で、「診察拒否の巻」「ヤブヘビの巻」「殺人事件の巻」の三章からなる。
あらすじ
温泉都市の大別荘の隣にある並木病院で、主人の医師、剣術使いの牛久玄斎、彫刻家の石川狂六が緊急会議を開く。狂六が「一作氏が早く死んでくれれば別荘が借りられる」「医者が一服盛り、剣術使いが一刀両断にしても憎めない」と口走ったのを、前山家の長男・光一が夫人の花子に告げ口したので、並木先生は診察を禁じられた。並木も玄斎も狂六も前山邸に頼って暮らしており、追放されればすべてを失う。狂六は夫人に弁明に行くが、見立てがヘタなだけだと言われて退却する。ところが一月ばかりのち、一作氏は原因不明のまま死んでしまう。解剖をしなかったので病因は分からず、疑惑は並木先生に向く。やがて花子夫人は金目の骨董を売って恋人と家出し、光一とマリ子の兄妹は互いに父親を毒殺したのではと言い合うが、結局誰が犯人でもかまわない奇妙な空気だけが残る。
登場人物
- 前山一作 別荘の主。病気で急死する
- 並木先生 隣の病院の医師
- 牛久玄斎 神蔭流の剣術使い。七十歳
- 石川狂六 一刀彫の木彫家で南画家。口が軽い
- 光一 一作の長男。カリエスでギプスをはめた青年
- 花子 一作の後妻。美しい
- マリ子 一作の娘
冒頭部(原文より)
この温泉都市でたぶん前山別荘が一番大きな別荘だろう。その隣に並木病院がある。この病院でその晩重大な会議がひらかれていた。集る者、三名。主人の並木先生(五十五歳)剣術使いの牛久玄斎先生(七十歳)一刀彫の木彫家で南画家の石川狂六先生(五十歳)いずれも先生とよばれるほどの三氏である。
「影のない犯人」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
そして、兄と妹は口をつぐんで右と左に別れたのであった。要するに、誰が犯人だか、見当がつかないらしい。そして、要するに、誰が犯人でもかまわないような変テコリンに無関心な時世が到来したらしいのである。戦争という大殺人の近づく気配が身にせまっているせいかも知れない。シリメツレツは今や全ての物についてそうであるのかも知れない。
「影のない犯人」坂口安吾(青空文庫)
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