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接吻(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物

嫉妬に振り回される新婚喜劇

  • ミステリ
  • 風刺

江戸川乱歩 1925年(大正14年)12月 「映画と探偵」

文字数
6,285字
読了目安
約13分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

江戸川乱歩が1925年(大正14年)、「映画と探偵」に発表した短編。恋女房を迎えたばかりで有頂天の役人・山名宗三が、妻の意外な行動に嫉妬の炎を燃やす、軽妙な心理喜劇である。鏡を使ったちょっとしたトリックをめぐって、嫉妬に振り回される男の滑稽が、乱歩ならではの皮肉なユーモアで描かれる。

あらすじ

近ごろ有頂天の山名宗三——一月ほど前に恋女房のお花を迎えたばかりで、暖かく薔薇色の空気がいつも彼を包んでいた。役所の仕事もそこそこに、四時の鐘を合図に家へ駈け戻る新婚ぶりである。ところがある日、宗三は妻のお花が、人目を忍んで一枚の写真に接吻し、抱きしめている場面を目撃してしまう。あれは誰の写真なのか——嫉妬の炎に焼かれた宗三は、あれこれと思い悩み、疑心暗鬼にとらわれていく。やがて事の真相は、鏡を使ったちょっとした仕掛けにあったことが分かり、宗三は「すまじきものは嫉妬だなあ」とつくづく嘆じる。だが物語は、そこにもう一ひねりを添える——男というものはお人好しにできているが、女というものは、表向き何も知らぬ顔をして、心の底に生まれつきの陰険を巣くわせているものだ。あの鏡のトリックも実はお花の創作で、彼女が接吻していたのはやはり別の男の写真だったとしたら……。人の好い夫にはそこまで邪推する陰険さはなかった、という皮肉なオチが利いた、乱歩の心理喜劇である。

登場人物

冒頭部(原文より)

 近頃は有頂天の山名宗三であった。何とも云えぬ暖かい、柔かい、薔薇色の、そして薫のいい空気が、彼の身辺を包んでいた。それが、お役所のボロ机に向って、コツコツと仕事をしている時にでも、いつも彼の身辺にフワフワと漂っているのであった。  というのは、山名宗三、この一月ばかり前に新妻を迎えたので、しかも、それが彼の恋女房であったので。

「接吻」江戸川乱歩(青空文庫)

末尾部(原文より)

 だが、読者諸君。男というものは、少々陰険に見えても、性根はあくまでお人好しに出来ているものだ。そして、女というものは、表面何も知らないねんねえの様であっても、心の底には生れつき陰険が巣喰っているものだ。このお花だって、お話の表面に現れた丈けの女だかどうだか、甚だ疑わしいものである。若しも、例の鏡のトリックが、彼女の創作であったとしたらどうだ。そして、彼女が接吻し、抱きしめたのは、やっぱり村山課長の写真であったとしたらどうだ。  それは兎も角男である山名宗三には、そこまで邪推をたくましくする陰険さはなかったのである。

「接吻」江戸川乱歩(青空文庫)

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