盗まれた手紙の話(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
精神病院からの怪しい手紙
- 風刺
- ミステリ
- 文字数
- 29,571字
- 読了目安
- 約59分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1940年(昭和15年)6月、雑誌「文化評論」の創刊号に発表された坂口安吾の中編。兜町の株屋に精神病院の患者から分厚い手紙が届く。株の変動を予言できる、保証人になってほしい、という内容を、一字一画ゆるがせにしない楷書で書き連ねたもので、これを盗んで読んだ男が試しに会いに行く。手紙の文面と談判の場面が大半を占め、語り手の皮肉な口ぶりがたっぷり味わえる、狂人と俗人の駆け引きの滑稽譚。
あらすじ
兜町の仲買店に、精神病院内から分厚い手紙が届く。差出人は、自分は全快しているのに公費患者のため退院できないと訴え、乗客の手から未来を読む自分の予言の力で株の大変動を知った、三百円と五百円の割り前でその霊感を使わせたい、とつづる。手紙は店の誰かの机で忘れ去られるが、出入りの深川オペラ劇場主人が盗んで読み、気違いなら怖いが試してみようと、指定のおでん屋へ出かける。現れた樫の葉の男は優雅な物腰で、もっともらしい弁舌を長々とふるい、退院には保証人になってほしい、まず競馬の予想で霊力を試してほしいと言う。主人は出馬表を差し出し、男は無造作に印をつけ、退院支度の金として二十円を受け取って、無言の看護人とともに畑の闇へ消える。翌日、競馬で外れた主人は、ペテンにかかったと憤り、暴力団二人を雇って病院に乗りこむ。だが男と看護人は本当に入院している患者だった。男は感動して挨拶し、主人は拍子抜けして虎八と鮫六とおでん屋で泡盛を飲み、ふるさとの母を思い出して泣きながら畑で眠りこむ。
登場人物
- 樫の葉の御人 精神病院の患者を名乗る痩せた男。礼儀正しく弁舌が巧みな予言者
- 木菟の先生 相棒の看護人。一言も喋らず首も動かさない
- 深川オペラ劇場主人 手紙を盗み読み、おでん屋へ出かける小劇場の主人
冒頭部(原文より)
ある朝、兜町のさる仲買店の店先へドサリと投げこまれた郵便物の山の中で、ひときは毛色の変つた一通があつた。たいへん分厚だ。けれども証券類や印刷物とは関係のない様子に見える。 ペン字のくせに一字一画ゆるがせにしない筆法極めて正確な楷書で、なにがし商店御中とある。
「盗まれた手紙の話」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
すでに武蔵野の田園は暗闇のはるか底へ沈み落ち、深川オペラ劇場主人の熟睡も暗闇のはるか底へ沈み落ちたが、虎八と鮫六は枝豆畑の旦那のことなどとつくの昔に忘れてゐる。黒髪のむすぼゝれたる思ひをばとけて寝た夜のなどと柄にない声で唄つて、おい、運送屋の先生、一献いきませうなどと差しつ差されつしてゐるのである。
「盗まれた手紙の話」坂口安吾(青空文庫)
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