盗難(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
予告状と偽の巡査
- ミステリ
- 風刺
- 文字数
- 12,320字
- 読了目安
- 約25分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
信者から集めた寄付金を狙う泥棒の予告状をめぐる短編。「写真報知」1925年5月15日号に発表。新興宗教の支教会で雑用係をしていた男が、探偵小説の材料にと「実験談」を聞かせるという体裁で語る。警官に化けた盗賊の大胆な手口に始まり、後日談のたびに見方が覆る。真相をひとつに決めずに終える結末が特徴。
あらすじ
語り手は、聞き手の探偵小説家に向かって、これは作り話ではなく実際の体験だと断って話し始める。三年前まで、ある新興宗教のN市の支教会で雑用係をしていた。主任は商才にたけた男で、増築費の名目で信者から寄付金を集め、筆頭の御隠居が納めた三千円を現金のまま金庫に入れて見せびらかしていた。そこへ「今夜十二時に寄付金を頂戴に行く」という予告状が届く。語り手は昼間に出会った髭の巡査に事情を話し、巡査は夜に立ち寄ると約束する。深夜、巡査は金庫の前で主任や語り手と茶を飲みながら宗教論を戦わせるが、やがて金を確かめさせ、札束を手にしてピストルを向けて立ち去った。この巡査は泥棒の変装で、ピストルは紐で吊した見せかけにすぎなかった。その後に来た巡査は非常線を張ると請け合ったが、金は戻らない。二か月後、語り手はY町の縁日で髭を剃った泥棒を見つけ、連れの男があとの巡査に似ているのに気づく。尾行した森で泥棒に呼び止められ、あの金は全部にせ札だったと告げられて三百円を渡される。語り手は主任の悪事を悟って教会を辞めたが、その札を妻が支払いに使うと無事に通用した。泥棒の言葉は嘘で、主任を疑ったのは見当違いだったのか。語り手は様々な解釈を挙げ、結末は聞き手の好きに決めればよいと笑って話を終える。
登場人物
- 語り手 教会の雑用係を五年務めた男
- 主任 寄付金集めに長けた支教会の主任
- 偽の巡査 警官に化けて金庫の金を持ち去る泥棒
冒頭部(原文より)
面白い話しがあるのですよ。私の実験談ですがね。こいつを何とかしたら、あなたの探偵小説の材料にならないもんでもありませんよ。聞きますか。エ、是非話せって。それじゃ至って話し下手でお聞きづらいでしょうが、一つお話しましょうかね。 決して作り話しじゃないのですよ。と、お断りする訳は、この話はこれまで、度々人に話して聞かせたことがあるのですが、そいつがあんまり作った様に面白く出来てるもんだから、そりゃアお前、何かの小説本から仕込んで来た種じゃないか。なんて、大抵の人が本当にしない位なんです。しかし、正真正銘偽りなしの事実談ですよ。
「盗難」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
その他にも、まだ色々の考え方がありますよ。たとえば泥坊の奴にせ札のつもりで、うっかりほかの本物を私に渡したと考えられないこともありませんからね。いや、結末が甚だぼんやりしていて、話しのまとまりがつかない様ですが、ナアニ、若し探偵小説になさるのだったら、この内どれかにきめて終えばいい訳ですよ。いずれにしても面白いじゃありませんか。……兎に角、私は泥坊からもらった金で女房の春着を買った訳ですね。ハハハハハハ。
「盗難」江戸川乱歩(青空文庫)
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